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執筆者の写真東京黒百合会

私のモチーフ

奥野 嘉雄

 コロナ禍もあって美術関連の本を読む機会が増えている。読んだ本のなかに「ヒトはなぜ絵を描くのか」(中原祐介、フィルムアート社)がある。4万年前に新人類(クロマニオン人)が暗い洞窟内で何故壁画を描いたのかを専門家達が集まって議論した内容で、絵を楽しむ一人として興味深く読んだ。

 洞窟内で描いた事由はともかく、草原を駆けるバイソンやウマなどの動物は描いた当人にとって最も興味あるモチーフだったと想像される。伸び伸びとした線刻や大胆な彩色は印象派のモネやゴッホの絵に通じるものがあると勝手に想像している。4万年たっても躍動感溢れる絵を描く心地よさは遺伝子として現代人に継続されているのかも。私も印象派の描写法、特にゴッホの伸びやかなスケッチ線やモネの光を巧みにとらえる彩色が好きで、何時もそれらが表現できるモチーフを探している。

 私が好きでよく描く風景に地元の手賀沼があるが、これに加えて描きたいモチーフとしては室蘭の絵鞆半島風景がある。室蘭は製鉄所勤務で長く住んだ土地であり、今でも昨日のように半島の風景が思い出される。離れて既に20年以上たつが、絵鞆半島を囲む青い海や白浜、岩壁を覆う緑の木々、海岸線に沿って並ぶ工場群などは今でも鮮明に思い浮び、絵心が刺激される。

 絵鞆半島は夏と冬で風景が一変する。図1はモネ的な色彩感覚を意識して初夏の青い海に囲まれた岩礁上にある白色の地球岬灯台を描いたものである。灯台は15m程の高さなれども晴れた日には太平洋が一望でき、水平線が丸く見えることでも観光客には人気がある。図2は晩秋の外洋側に起立するトッカリ礁を描いたものである。ゴッホ的に岩礁をややデホルメした線で描いたが、これは岩礁の輪郭に躍動感を与えて海に屹立する威だけしさを表現したかったためである。

このトッカリ礁はアイヌ語で「アザラシの岩」を意味すると言われるが室蘭半島を外洋から守る守護神の様にも見える。

 室蘭にはまた何時か訪れて夕日に赤く染まる大黒島や雪に覆われた屏風岩の風景を大胆な輪郭と配色で描けたらと密かに願っている。


図1:初夏の地球岬灯台(油彩・F10)


     










図2:晩秋のトッカリ礁(油彩・F20)


  



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