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執筆者の写真東京黒百合会

私のモチーフ

樋口正毅  

砂漠の国クウェートの季節は、4月から10月の夏期と11月から3月の冬期の2季にはっきり分けられる。年間を通じて寒暖の差は大きく夏期は最高50℃冬期は最低0℃まで下がる。この過酷な気象条件故に、官庁での勤務時間は土~水曜日までは朝7時半から12時迄で、木~金曜日は休日となる。だいたい昼過ぎには自宅に帰って食事をし2時間位昼寝をし、買い物などは夜19時過ぎからで、スーク(市場)も国営のスーパーマーケットも夜22時頃まで賑わう。



「浅草の夜店のような金屋」(F3号水彩)

 夏期は雨も殆ど降らず、時々砂嵐に見舞われる。砂嵐になると、いつもは強烈に輝いている太陽も、まるで月のように黄色く鈍く光るようになり、昼間でも車はヘッドライトをつけてのろのろ走る事になる。砂嵐の砂は片栗粉のように白く細かく、部屋中の窓という窓をテープで目張りしていても、テーブルの上などは真っ白になる。


「クウェートタワー」(F3号水彩)                        

 夏は殊更に過酷なので、クウェーテー(クウェート人)始め外国人も夏休みは45日間程クウェートを脱出し、ヨーロッパ方面に避暑を兼ねて旅行するのが普通だ。我が家も滞在中日本に一時帰国と海外旅行とを1年毎に繰り返し、合計150日余りを家族でヨーロッパ各地で過ごした。日本人学校の先生・生徒さん達(息子達を含む)も夏休みは2週間程スイスでの林間学校生活を楽しんでいた。

2月~3月はベストシーズンと言われており、快適な毎日を送る事が出来る。この頃になるとクウェーテーもかっての遊牧民(ベドウイン)としての血が騒ぐのでしょう、春のバカンスと称して一家で砂漠にテントを張って楽しむのです。砂漠も所々に緑が芽吹き、小さな可憐な花々が短い春を謳歌するのです。私たちも弁当を持って家族で砂漠に花見に出かけます。クウェート市を離れ砂漠の中の道無き道を走りますので万一1台の車がスタック(タイヤが砂にズブズブと埋まる)しても大丈夫なように、必ず2~3家族で行動を共にするのです。遠くにラクダ(ヒトコブラクダ)の群れを見たりしながら3時間程も走ってやっとアヤメの谷に到着です。



そこは2cm足らずの小柄な紫色の花びらに白い模様が入り背丈は10cmほどの可愛いアヤメの群生花園です。まるで紫の絨毯を敷き詰めたようでハッと息を飲む。周りにはタンポポのような花や名も知れぬ花々がミニチュアのように咲き誇り、まさに「砂漠の春爛漫」と言ったところです。


   背丈10cmほどのアヤメの群生

 蛇足ながらクウェート日本人会婦人部の会の名称は、この花に因んで「アヤメ会」と名付けられています。

(筆者は1975年から1980年までクウェート総合科学研究所に勤務し、家族共々5年間ほどクウェートに暮らした)。       

       

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