・絵を描くにあたって 牧野尊敏
アスリートや音楽家が技を磨くのに練習は欠かせないものになっていることは、マスコミ等の報道で多くの人が見聞きしている。では絵を描くにおいてはどうか。何度も絵を描くことに尽きるが、練習ということになるとデッサンであり、スケッチであると思う。
今回はそれに触れてみたい。絵を描くにあたっては手を動かすことが必然である。
手を動かせば必然的に頭も使う。絵は独創性が必要であるとよく言われ、他にない発想を求められる。
しかしそれは裏付けが伴うものでなければならないと思う。
地味ではあるが、発想力を高めるためにデッサン、スケッチが欠かせないと思っている。
デッサン、スケッチは対象物の描写の正確性を追求するとともに、絵の構想を練るため等のもので、完成作品ではない。
人によっては、細部まで細かく完成作品前提で描く人もいれば、構図程度のラフ描写の人もおり、また印象のみをとらえて描く人もおり、人それぞれである。とにかく実物をみて描くことに意味がある。室内のデッサンはもとより野外スケッチも、特に自然風景を対象とするのであれば、一本の木、一枚の葉、花等描く上では区別なく対象の特徴を引き出す工夫をする。そうは言っても、なかなか思うようにはいかず、思い悩みながら繰り返し描いているのが現状である。 このような訳で最近も続けて描いているデッサン、
スケッチについて、大変恐縮であるが、私の描いたものの例を紹介する。
図1~図4は、裸婦デッサンのクロッキー例である。このクロッキーにおいてもモデルのポーズは無限にあるが、座ポーズのみでもその向きや表情等は描くたびに異なるが、その都度そのポーズに合わせ、なるべく正確に描写することに努めている。
図1は顔が上を向いた状態の座ポーズであるが、珍しいポーズであったので取り上げてみた。
頭が傾いた表現の絵にしなければならなく、又身体全体のバランスも要求され、5分くらいの時間で描くのは容易ではない。瞬時に正確性が求められ、ちゃんと上を向いた絵になっているか否か、大きな狂いがあるかどうかをチェックする練習になる。
図2は顔が横向きのポーズで、色を付してみたクロッキーである。色を付すると、絵に立体感が出てくる。
このポーズは組んでいる足の一方がちゃんと手前に出ている表現を要求される一般的なポーズである。
図3は背後からの座ポーズのクロッキーである。
これも色を付してみたものである。このポーズは背中中心で、図のポーズでは、顔を描かないので全体のバランスが重視されるかと思う。特に逆光の場合、光の当たり方の表現の練習になるかもしれない。
図4は立ポーズの変形例であるが、ラフに近い筆致で描いてみた。ポーズに動きがあったので取り上げてみたが、足を長く描いたかもしれない。
今回は4点のデッサンを取り上げたが、描く時間が3分~20分である。
このクロッキーで描くたびに対象の表情等が異なり、短時間で全体のバランスをとらえ、モデルの向きを見ながら連続的に手を動かして描いていくので、手を動かす練習になる。
色を添えると絵の雰囲気が変わるので、描画中に余裕があれば色を付するようにした方が効果があってよい。人物という対象のデッサンは、ポーズは無限であり描く上では飽きがなく毎回新しい発見をする。
この点は石膏デッサンと異なる。
デッサンは、対象が何であれ基本的に多くの描写は鉛筆、ペン、コンテ等単色の世界になるが、絵を描く練習において基礎的な素養を養い、効果的で貴重な描写法であると思う。
囲碁でいうと、盤面全体をみて、碁石を置くような感じである。
図5,図6は風景スケッチの例である。手賀沼の同じ場所で異なる時間帯で描いたものである。同じ場所で構図は同じであっても、異なる時間差で描いた絵は、雰囲気が全く異なる絵になる。
図5は昼の時間帯、図6は黄昏の時間帯の絵である。その雰囲気の違いは見てのとおりである。
同じ場所を何度もスケッチするのは、描くたびに色々と新しい発見をし、絵の勉強になる。
今回は沼の絵を紹介したが、私は特に海岸の風景も多く描いている。
練習画を描く上ではもってこいの対象ではないかと思う。
波の変化が無限であり、描いて飽きがない。
セ ザンヌや印象派の画家、また浅井忠のグレーの絵でも知られるように、有名な画家が同じ場所で何枚も同じような絵を描いているのはよく知られている。
これは勝手な推測であるが、これは画家にとって練習に相当する描写行為ではなかろうかと思う。
このような訳で、絵を描くにおいて、あまり対象物にとらわれず、同じ対象物、例えば空等であってもよいが、何度も向き合って描いているうちに興味がわき、自然と手が動き形を成すようになってくると思っている。
以上、数点の絵の紹介で恐縮であるが、紹介した絵についてご覧になった方はどのように評価されるか、機会があったらご教示くださると幸甚です。
とにかく描く対象は何でもよいので、手を動かし描き続けることが大事であるとつくづく思う今日この頃である。
図1
図2
図3
図4
図5:手賀沼 (昼)
図6:手賀沼)(黄昏)
Comments