古民家の魅力
牧野尊敏
最近古民家に興味を持ち保存されている近隣の民家を訪ね歩いている。古民家、特にかやぶき屋根の民家については残存数が少なくなっているが、多くの作家が描いているのはご存知の通りである。古民家の魅力とは何かと考えてみた。日本の民家の多くは木造である。当たり前であるが木造はそのうちに朽ちて自然に戻る。そのことが、自然風景を多く描く私にとっては魅力なのである。なぜか?生活空間が自然に溶け込んでいると感じるからで、特に廃屋になった民家は自然の一部となっていて描きたくなる対象である。長野方面にはよくスケッチに行くが、かやぶき屋根の古民家が年々消えてなくなっているのは寂しい。長野オリンピックの時に、農家の人が嘆いていたのを思い出す。多くの人が描いている白馬の大出部落でスケッチをしていたとき、つり橋のたもとでたまたま農家の老夫婦と話をしていたら、かやぶき屋根の家を維持するのは大変だからいずれ解体すると言っていた。当時長野オリンピックを機に急速にこのようなかやぶき民家はすたれていった。野平部落や青鬼部落の民家も同じで、数年後に行ってみたらあれほど多くあったかやぶき民家は殆どなくなっていた。私の常宿にしていた民宿のある蕨平部落は長野の観光案内書にも掲載されていたが、行くたびにかやぶき民家は消滅していた。しかし、山間や農地にマッチングしているこのような古民家はまだ地方に残っており、描く機会はある。古民家の描かれた絵は、褐色系で派手さはなくどうしても地味になってしまう。古民家を描く画家では明治の浅井忠や向井潤吉が代表的な作家であるが、日本家屋の特徴をよく示し風景に溶け込み日本の自然美を表現していると思う。昔北海道から本州へ初めて来た当時、カラフルなトタン屋根の函館から海を渡って青森に着いたとたん、東京までの汽車の車窓から眺める本州の家々は灰色の連なりになっていて、その異様さに驚いたものである。しかし今となって考え直してみると、それが自然に溶け込んだ日本の原風景であったのである。明治に日本を訪れた西洋人が日本の風景の美しさに魅了された心境がわかるような気がする。このようなことを思いながら描いた私の古民家のスケッチ絵を紹介する。絵1は、地元松戸の斎藤邸である。庭には梅木他あり典型的な名主農家である。絵2は、柏の吉田邸で醤油製造を営んでいた豪商の家である。絵3は、杏の里の民家、杏の木とマッチングしていたので描いてみた絵。色々と古民家を描いていると、心なしか落ち着いた気持ちになるのは不思議である。
絵1
絵2
絵3
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