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  • 執筆者の写真東京黒百合会

第60回 東京黒百合展 相互講評

 恒例により、出品者相互の作品講評(感想)を下記に掲載します。これは出品者全員が籤引きで相手を決め、作品について率直に感想、意見を述べ合うものです。相互に作者の想いを語り、絵画の魅力、絵の楽しさを共有できれば幸いです。

◯ アイウエオ順

左・出品者 右・←印は講評者。

   ◯ 作品はHP「ギャラリーコーナー」で見ることが出来ます。

――――――― ★ ―――――――


会津光晨  「太い樹」← 石川三千雄

 地元に根づき、尊敬と力強さを与える大木であろう。また誇りでもあろうと思われる。

力強い迫力を感じる描き方です。


石川三千雄「月夜見峠から小河内ダムをみる」← 小石浩治

 多摩川をせき止める小河内ダムは東京都の水瓶である。幸い台風被害もなく、都民も安心して日々を送っているが、その昔、ダム建設には多くの苦難の歴史があった。

その想いをもって作品を見ると、遠景、近景の樹木をリアルに描き、画面全体の色調を整えると絵に深みが出る。湖底に沈む村の祭神、先祖伝来の田畑、集落の人々の姿が瞼に浮かび、耳を澄ませば鳥のさえずり、川のせせらぎも聞こえてくる。

緑溢れる山間の湖に神秘の世界が顕われる。それがこの作品の目指す“風景”ではなかったか・・と思った。


江澤昌江 「夜の声」← 奥野嘉雄

 色鮮やかな配色が素晴らしく、月光に映る木々の躍動感が伝わってくる。

絵は見るものでなく感じるものと言われる。まさに、この絵からは「昼の喧噪が終わり、虫達が伸び伸びと謳える夜が来た、さあ、月光で煌めく森の中で楽しく合唱しよう」・・のような物語が浮かぶ。このイメージは作者と合致しているだろうか。


奥野嘉雄 「浅草寺の大提灯」← 長谷部 司 

 雷門の大提灯を取り入れた構図では広重の静謐な冬景色の浮世絵が有名ですが、奥野さんの大画面の大提灯は、対照的に昭和期の活気にあふれた浅草の歓楽街の夜景を活き活きと描き、作者の浅草の街に対する深い愛情と郷愁を感じさせてくれ、嬉しくなりました。


尾中健二郎 「もの想う風の中」← 建脇 勉 

 先ずダイナミックで迫力ある渦が飛び込んでくる。だが、コメントにある大桟橋埠頭とか「イベ材」ウッドデッキとはどうなっているのか? また人物らしい黒の物体はとても理解に苦しみます。

 (編集注:イペ材は、南米産広葉樹・木目が美しく耐水耐久性に優れた木材、桟橋など工事に多く使われる)


笠木貴美子 「再生」 ← 長谷川 脩

 手術を終えた初春の退院。病院横の満開の白木蓮が、自然だけが持つ力強く美しい姿を

「よかったですね!」と作者に現わしてくれたのだろう。いつも拝見している抽象の墨彩とは違った具象の笠木ワールドが姿を見せた。

以前、ボタニカル・アートを手掛けたと伺った。その技術が、ここでは墨彩の濃淡の中に

見事に開花している。


笠原 寛  「りんごの花咲く」← 初谷長治

 展覧会では毎回笠原さんの農村風景の絵を楽しみにしています。作品の講評ですが、空  

気遠近法の効果が良く効いていて、視線がスーッと引き込まれます。また中央の主題の山がその裾野の田園風景とコントラスト的にマッチしていて、見た人にくつろぎ感を醸し出しています。

自分の好みから言えば、近景の木や花などの線をもう少しはっきり出すことで遠景とかの見え方で差別化が強調されて、より印象が強まると思います。



鏑木照美 「千年のつぶやき」← 森 典生

 山高の神代桜は、日本で「現役で花を咲かせる」最も古いエドヒガンと聞く。

春たけなわの喜びを告げ、さまざまな方向に伸びる面白い枝をうまくまとめて描いている。

幹をどっしりと力強く踊り出るように表現されているのは見事で素晴らしい。

作者の感動が良く表現されていて味わいのある作品である。


木綿弘子  「深まる秋」← 細井真澄

 木綿さんの絵は年々すばらしさが倍増しております。色合いといい、構図を含め、全てが完璧に近づいています。

特に詳細に描かれたザクロの赤い色調と葉の緑色、ほのかに灯るランプの光から画面全体の温もりと安らぎが伝わって来ます。

窓の反射光の色調、横たわる木々や果物等の配置もバランス良くまとまり、ゆっくりと充実しながら流れている時の重みを感じる事が出来る素晴らしい作品に仕上がっております。


小石浩治  「雨にもまけず」← 笠木貴美子

 銅像の実物は見た事が無いせいか、バックの空を駈けるドラゴンと相まって幻想世界の様に思えた。

 童画の様に感じる真っ直ぐさと力強さは、つい暗くなる世相の中での救いだった。


後藤一雄  「Fractal Mix 2022」 ←  笠原 寛

 不得意なものが幾つかあります。カラオケ、水泳等です。「フラクタル」の事が解らず、妻が後藤さんに尋ねました。

「物理と数学の理論で描く。」との事でした。

数学と言われますと私の最も不得意とする所ですから、全くチンプンカンプンです。

頭の中で練りに練って、自由気ままに描いていく後藤さんを羨ましく思った今回の展覧会

でした。


柴野道夫 「初秋の山並み」← 尾中健二郎

 「初秋の山並み」は、柴野ワールドの風景画だ。空、山並み、畑や畑仕事、どこを見ても奥深い複雑な色遣い、細やかなマチュエール、更に構図が印象的だ。見ている者に温かいやさしい雰囲気、愛情が伝わってくる。

見た後も穏やかな気持ちが残る。柴野さんの心の中の愛する安曇野の世界は素晴らしい。


清水全生  「初夏の妙義山」←  木綿弘子

 画面から6月の爽やかな風が吹いてくるような素敵な絵です。点景となる人物も家も

どこか、ほのぼのとした風情をかもし、絵を更に魅力的にしています。

新緑の色もとても美しいです。ただ、麓の緑の色が、単一になってしまったようで、

もう少し変化があった方が良いような気がします。


建脇 勉  「霊樹」 ← 細井真澄

 近年、建脇さんの作風が変わって来た様に思います。

今までのダイナミックなクレーン等の具象的表現から心象的なものを強く訴えている気

持ちが伝わって来ます。

今回も法隆寺釈迦三尊像や百済観音像を想像させるご神木が中央にドデンと立っている姿は霊樹としての大きな存在と全てを包み込む神的な存在として強く感じ取る事が出来る素晴らしい作品に仕上がっていると思いました。 


西沢昭子  「九谷の壺の花」 ←  鏑木照美

 九谷焼の花器に色とりどりの小花が活けこまれ全体に明るい作品です。

静まりかえって動くことの少ないコロナ禍にあって、椅子に背もたれにオレンジ色の布をかけて花々をより明るく鮮やかに見えるように工夫されていました。


長谷川 脩  「モデルバーン」 ←  福林紀之

 その昔、恵迪寮を出てこの付近を歩くと、獣の臭いがした。ここも今は清潔で美しく、札幌の日曜画家のメッカであるらしい。

作者はこの農場の雰囲気を見事に描いている。屋根の朱色を抑え、武骨な木の壁も柔らかく上品である。何より、水面を大きくとり、建物や楡の大木が静かに映りこんでいるのが印象的である。

水面に浮かぶ落葉もお洒落である。温厚な作者の人柄が出ている作品である。


長谷部 司  「妙義・白雲山」 ←  江沢昌江

 学生時代からの念願が叶ったと聞くだけで御福分の気分。 遠くは白い雲、手前は青い空を背景に、特徴的な山が高くゴツゴツと表現されている。新緑は裾野から包み込むように這い上がっていて、こちらは柔らかくイキイキとしている。地面がうんと下の方にあるのも良いと思った。


初谷長治 「独・バイエルンの田舎の風景」 ← 柴野道夫 

 コメントによると30-40年前に旅行した時に購入した版画を参考にされたとあるが、実に巧みに描かれていると思いました。

先ず構図が良い。建物中心に左が登り阪。右がくだり阪、難しい現場をきちんとまとめられ、樹木や空の処理も必要にして充分であり、「味ある絵」と感じました。


福林紀之  「妙義山・初夏」 ←  後藤一雄

軽快なタッチと水彩のみずみずしさが表現された1枚です。久しぶりの自然の中で絵にも

開放感があふれている。


細井真澄 「もういい加減にして下さい」 ← 渡辺理枝

 第一印象は「絵本のような美しい雪原と愛らしい動物たちが実に精密に描かれている」

だった。この絵はコロナウイルス下、熊(ロシア)ひまわり(ウクライナ)とライオン(未来を担う子供たちなど)を表現したとご本人から説明を受けた。皆が同様に「退散して」「ウンザリだ」という思いを共有出来たら戦争のない平和な美しい地球が

守られると信じたい。


牧野尊敏  「黒百合讃歌」 ← 会津光晨

 絵の前に立つと、咲揃う黒百合の花達を取り囲む3人の女神像が目に飛び込んでくる。女神達は細い線で縁取られた清々しい裸婦で、周りには緻密に構成された北大に関係する花や風景がちりばめられており、明るい画面からは「栄光あれ」の気持ちが溢れている。絵を完成させるには大変な努力が必要だったと思われるがその気力・体力に感銘を受けた。


森 典生  「仏ケ浦の奇岩」 ←  清水全生

 下北半島の仏ヶ浦は、国の指定天然記念物として自然が作り出した巨大な奇岩が多数並び、その奇岩が仏様の姿に見える神秘的な場所である。海側から奇怪な形状の岩石が並ぶ様はバランス良く描かれ、岩肌の色調は様々な色が重ねられ、陰影の度合いも素晴らしい。水面下の映り込みも綺麗に出来ている。敢えて言えば、背景となる暗緑系の崖は良い色が出ているので、主役の奇岩のみでなく、そちらにも少し光を当てても良いと思いました。


山川直美「みんなの日本書紀ドリルイラスト」 ←  西沢昭子

 「海も山も風も木も神様の子ども」。腹かけ姿の海の子ども、バンザイして波に浮かび、手からは雲が湧いて・・。日本の天地創造神話がとても可愛いイラストに。

天の岩戸の天照さまは、「まっくらなはずなのに・・。気にならないから・・・、でも見たい」と外のぞいてしまう。こんな可愛い挿絵の本には大人も子供たちも夢中になることでしょう。山川さんの愛情が伝わってきます。


渡辺理枝  「いのち」 ←  牧野尊敏

 ねこのポーズが誠に愛らしく、まとまった構図の絵である。ねこが絵をみている人に何

か語りかけているようにもみえる。

そのことが生きているいのちのことを表しているのでしょうか。この絵には人工的なものがないので自然の中での存在感がある。

しかし、題名がいなくなった猫の「いのち」であるが、単に生きていた頃の猫の思い出の絵としか見えず、絵を見ただけではトカゲの意味することを含め、作者の深く意図するところがよくわからなかった。

何か死と対峙する形で表現すれば、生の強調となり絵に深みが出たのではないかと思った。 

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お知らせ

東京黒百合小品展開催のお知らせ 幹事  長谷川脩  細井真澄 のどかな春の日々を迎えるようになりました。春の展示会、「小品展」の開催時期になりました。 日頃の制作活動の成果、これまで発表の場が無かった作品、愛着の深い作品等が数多く集う小品展になることを 希望します。皆さんが積極的に出展くださることを願っております。 開催要領は下記のとおりです。 記 1.名  称 : 第6回東京黒百合小品展 2

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