今回紹介する絵の一つは、第55回東京黒百合展に出品した「筑波山遠望」(油彩画)である。春の写生会で筑波山をスケッチしたものを題材にしてまとめた絵である。筑波山は昔息子と一緒に登山したことがあり、懐かしい山である。写生した日は、幸い晴天に恵まれたので、数多くスケッチした。スケッチの日は好天ばかりでなく、曇天、雨の日もある。
特に雨の日は、外で描くことはできないので、軒先で描くか室内で窓越しに描くか写真をもとにするか等である。スケッチは絵のメモのようなもので、例えば木のみを部分的に描くようなこともしている。 完成作品はその組み合わせと写真を参考に具象画として構成するのが私のスタイル。風景スケッチは自然に身をゆだねるので癒され、至福のときである。スケッチのよいところは、スケッチ中に少し姿勢を変えるだけで同じところであっても、目に入る構成がいろいろ変わることにある。従って、同じ場所で何枚もスケッチが可能ということになる。写真をもとにすると、どうしても写し絵になってしまうのであまり推奨はしない。しかし有効な手段である。
ダ・ヴィンチの手記に、風景の写生について記されている。特に太陽に照らされていない曇天の日に描くのがよいといっている。これは細部がよく観察できるからであるが、最近はデジカメで細部の写真が撮れるので、これを参考にすればよく、このことはあまり気にしなくてよいと思う。「筑波山遠望」は、スケッチ絵に花を添えたり、農家の屋根の色を変えたりして編集した。秋の写生会では、たまたま雨上がりのモヤの風景に遭遇した。このモヤのある景色は、絵で遠近感を表現するのに好適である。近くのものははっきり見え、遠くのものはよく見えないからである。極端にいうと、近くのものだけを強調すれば絵になってしまう。山を描いた水墨画は非常に参考になる。色を添える場合は色相を考慮しなければならない。このようなことを考えながらスケッチ画としてまとめたのが、「山道」(水彩画)である。モヤのある山道らしい雰囲気を感じとってもらえたかどうか。スケッチは自分の思いを表現する手段でもあるので、これからも続けていきたいと思っている。 (S・39 工学部・機械)
注:本文と絵は北大東京同窓会誌「フロンティア」2018/2 「風景との対話」から転載させていただきました。
油彩画(筑波山遠望)
水彩画 (山道)
水彩画 (山道)