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小石浩治

ターナー・風景の詩

 4/24~7/1 損保ジャパン日本興亜美術館

ジョセフ・マロード・ウイリアム・ターナー(1775-1851)はイギリスを代表する風景画家である。 美術館の展示構成順にみていこう。

第一章 地誌的風景画 ――旅の画家  地誌的水彩画流行の背景には、イギリスにおける自国の歴史や地理についての関心の高まりがあり、中世の聖堂、修道院跡、古城等を自然の中に配した絵画がもてはやされていた。  ターナーはイギリス国内は勿論、フランス、イタリア、ドイツ、スイス等欧州各地を訪ねた。

「コールトン・ヒルから見たエデインバラ」

 上の図は原画(水彩)を拡大したもので会場入口に飾ってあった。図は、丘から南西方向をみた町の景色を遠近法で描いている。  1789年にロイヤル・アカデミー付属の美術学校に入学(14歳),1802年ロイヤルアカデミーの会員になり(27歳)、上の図を描いたころは 遠近法を教えていた。

第二章 海景―海洋国家に生きて   彼が活躍した時期は古い時代の「帆」から新しい時代の「蒸気」へ変わる過渡期でもあった。自ら荒れる海の船に乗り込み、船長に頼んで体をロープでマストに括り付け嵐の中をスケッチしたという逸話もある。また、スケッチブックに、海岸に砕ける波、嵐の海に船を出そうとする漁師たちを描き残している。実際の景色を克明に記録し研究していた。今回展にはないが、1834年作「国会議事堂の火災」は、ターナーが水彩で、消防活動が行われる現場まぢかで描いた。しかもすでに60歳に近いターナーは、この火災を描くために市内を走り回ったと言う。火の光、月の光、嵐の中の光・・生涯「光」を風景の中に描き、「光の画家」と称された。

「風下側の海辺に入る漁師たち、時化模様」

「難破船」油彩

第三章 イタリア――古代への憧れ   古代ローマやルネッサンスを中心とするイタリアの芸術は、英国画家たちの手本となっていた。ターナーがイタリアを訪れたのは1819年、44歳の時である。

「モンテマリオから見たローマ」水彩

グランドツアー(外国旅行・フランス、イタリア等)で訪れた地の風景画が人気を呼んだ。※

第四章 山岳――新たな景観美を探して  高い山、深い谷、嵐など、観る者に恐ろしさを感じさせ、気持ちを揺さぶるような自然や自然現象に美を見出す考えをサブプライム(崇高)というそうだ。ターナーもその影響を受け、かって訪れたイギリスの山やヨーロッパの山のスケッチをもとに、巧みに表現している。

「サン・タゴール山の峠」・スイス

●ターナーの版画    今回展では、作品110点のうち約半数の エッチング等銅版画が飾られていた。    解説パネルによると、 ターナーにとって版画の重要性は、   1)版画によって自分の作品を普及させる   2)版画が旅行ガイドとしての役割を担う   3)版画そのものの芸術的価値が高い と、ターナー自身が認識していた故だと言う。    第四章で触れた※グランドツアーは、18世紀から19世紀にかけて、イギリスの裕福な貴族の子弟等が学業の終わりには長期の外国旅行に出発する。この旅のことをグランドツアーと言った。主な行く先はフランス、イタリアで、貴族たちは自分が訪れた先の風景画を買い求めた。画家たちもこの要望に応え、ターナーはその第一人者であり「旅の画家」と言われた。 ターナーは、生涯、銅版画約800点以上制作し、彫版師も80人以上携わった。制作にあたり、主に水彩で描かれた原画をターナー自身が選んだ数人の彫販師と綿密な相談を重ねたうえで版画化された。原画の効果を忠実に再現するため、ターナーの要求があまりにも詳細なものであったことから、彫販師との間が険悪になることもあったという。    下図Aは水彩「ストーンヘンジ」(イングランドの古代巨石記念物)、嵐の後の雲に覆われた空の下、遺跡の大きな石柱の前に、雷に打たれた羊飼いや羊が描かれている。    下図BはAを版画にしたもの。

A

B

 1775年 ロンドンに生まれる。アメリカ独立戦争  1789年 14歳のとき。フランス革命  1802年 R・アカデミー会員。 仏と和平条約  1803年 ナポレオン戦争  1807年 R・アカデミーの教師(32歳)  1819年 44歳。初めてイタリアを訪れる。 (1821年日本・伊能忠敬「大日本沿海輿地全図」完成)  1825年 世界初の旅客鉄道 (1831~33年  日本・北斎・富獄三十六景) 1844年 69歳 「雨、蒸気、速度」油彩 1845年 70歳。フランス旅行  1851年 ロンドンで亡くなる。76歳。

 晩年のターナーは画布への詳細なデッサンから、最初に絵具を付けた筆で概略色の面で描き、 その後、詳細を描きこむ手法へ、更に「形」は曖昧に、線ではなく面、色彩で描く。色彩に構図を担わせる手法に変って行った。その代表作は「雨・蒸気・速度―グレートウェスタン鉄道」と思うが、残念ながら今回は展示なかった。

参考書:「ターナー」藤田治彦著・六耀社刊

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