top of page
会津 光晨

風景との対話

 (“フロンテイァ”no.53  8/20号から) 巨石の村 モンサント  2016年の初夏に2週間程ポルトガルの旅をした。その折りに「ポルトガルで最もポルトガルらしい村」に選ばれたという「巨石の村」を訪れた。 リスボンのバスターミナルを午前10時に出発しバスを2回乗り継いだ。大西洋沿岸からスペインとの国境地帯まで約240km。オリーブとコルク樫の生える平原を延々と走ると急に岩山となる。出発から約4時間半でモンサント村に到着した。

 村はコンパクトにまとまっていて幾筋かの坂道に家が建ち並んでいる。これを辿ると巨石が貫入した家、石に挟まれた家、屋根に石が乗った家などが次々と現れ特異な街並みを造り出している。民宿にでもするのだろうか、屋根から突き出た巨石をそのまま残しながら改修工事をしている家もあった。  頂上には城跡があり、ここから下の村落やスペイン国境の山並を眺めることが出来る。案内書によればモンサントは「聖なる山」の意味で古来より人々にあがめられた山らしい。イスラム支配の後、12世紀にポルトガルの初代国王の統治下になり、その後テンプル騎士団の統治を経て、13世紀にはドン・ディニス王により岩山の上に城が再建されたという。  この城を頂上にして村は丘の中腹に張り付いているのだ。岩山にとりついた家を繋ぐ石畳の小道は家々と一体化して懐かしさを感じさせる。 村はお年寄りが多そうだが、特におばさん達は元気そうで、手造り人形を並べたり、花の世話をしたりしながら愛想のよい笑顔を見せてくれた。住人達はここが要塞となっていた時代にそれを守った人達の子孫のようだ。

 日中外は大変暑かったが、我が民宿は風がよく通り、夜は涼しくて快適だった。宿の側面に巨石があり、洗面所や台所に顔を出していて“なぜこうもまでして”と思う。さすがに所々空き家が見られるものの、人々はおだやかに暮らしているようだった。  この時期、日没は21時過ぎと遅く、朝は5時すぎに起きると既に日が射していた。夕やけは紫から藍色にうつろい暗闇と静寂が訪れる。朝焼けは橙色の陽が教会の塔を照らしてため息が出るほど美しかった。 人の住まい方はいろいろあるものだが、この人々は斜面の巨石を利用した驚くべき集落を築いてきた。我が村に注ぐ強い愛着があったのだろう、心の琴線に触れる風景が今も残っていた。

閲覧数:7回0件のコメント

最新記事

すべて表示

投稿

投稿

bottom of page