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小石浩治

私のモチーフ

 “この木はいらないね”―― 小石浩治画用紙(F6)に描いた風景を、もっと大きなサイズの油絵にして描くときは、キャンバスサイズにした紙に下描きして構図等を考えることにしている。ある時、画材屋の主人に下描きを見せて意見を聞いたところ、「右側の木は要らないね」とソッケなく言われた。自分としては、元絵の写生画をそのまま「油」にしようと決めていたので、 拡大して「油」にするときは、もっと現場の雰囲気を忠実に再現したいと考えていたから、「実際、ここに樹があった」と現場を縷々説明したものだ。「何故要らないの?」と聞くと「江戸川の広さが出てこない」というのだ。風景を「写生」するのは、「俳句」も同じだと言ったのは正岡子規である。明治のころ、子規が文学において写生(スケッチの概念)を提唱し、「散文」においては文章を不必要に飾り立てず、事物や出来事をあるがままに書くべしと言った。その後、俳句の詠み方は深化したが、俳人藤田湘子※は、“絵”が浮かんでくる俳句に次のような佳句があるという。 “滝の上に水現れて落ちにけり” 後藤夜半これは<五・七・五音の上五(たきのうえに)>の六音に読ませる「字余り」が、今まさに落ちようとする水の動きを捉えて、後はどうと落ちる水勢を感じさせる。一句17音すべて描写と言ってよい句だが、享けるものは描写そのものではない。>と解説していた。俳句は17音で詠む「韻文」である。「韻」は「ひびき」。「空間」に滝の「音」が聞こえる。僅か17音で写生するには省略がカナメだ。省略は佳句への出発点であるという。湘子は「作句の心得」を次のように説く。

1、俳句の中で喋ろう語ろうとしないこと

2、自分の感動したところにポイントを絞る

3、ポイントを絞ったら不要な素材は捨てる

4、捨てたものに未練は持たず、残ったものをよく観察する

※藤田湘子「実作俳句入門」角川書店

下描き「渡し守」

画材屋の主人の指摘を改めて考えてみた。

〇 ポイントは船を見送る「渡し守」だろう。

〇 右の木を省略して影を描けば存在を示せる。

という訳で、油彩で描いたのが下図である。

確かに川幅が広くなり、渡し守も前に出てきた。船頭が「♪矢切の渡し」を唄っている。

やっぱり「省略」のおかげかな。

油彩画F30「矢切の渡し」

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