話の小箱
- 小石浩治
- 2019年1月1日
- 読了時間: 4分
82歳の少年、少女を描き続ける <少女画の画家・高橋真琴さん> 雑誌PHP・2016/12月号(株・PHP研究所発行)
(取材・文 辻由美子 写真・御厨慎一郎) 本棚を整理していたら雑誌“PHP”の取材記事が目にとまった。82歳の画家が<少女漫画を描く>話である。以下、PHPの取材記事から抜粋してご紹介したい。

―高橋真琴。1934年(昭9)、大阪のサラリーマンの家庭に、男3人兄弟の長男として生まれた。「母が女学校の日本刺繍科を出ていたので家に刺繍の原画がたくさんありました。母は絵が好きで、私が小さいときはよくちゃんちゃんこを着たウサギの絵を描いてくれました。」 〇中学1年生の時のエピソード;「数学の時間に、サイに乗った少年王者の絵を描いていて夢中になってしまい、授業中だったことも忘れて『ワーワー』と声をあげてしまったのです。先生にこっぴどく怒られた」しょげかえっている高橋さんに声をかけたのが社会科の先生だった。「授業はちゃんと聞かないとダメだが、そんなに「夢中になれることがあるならそれを伸ばせ」と言われたんです。その一言が背中を押してくれました。」 〇中学二年生の時の運命的出会い;「学校の図書室で中原淳一さんの描く抒情的な絵(ひまわり)が並んでいました。それまで少年漫画しか知りませんでしたから、こんなに美しい世界があったのかと衝撃を受けたのです。絵の美しさと女性に対する憧れが一つになって、もっと知りたいと思うようになりました」――以来、少女画の世界にのめり込み、赤毛のアン、若草物語などを読みあさり、女の子は男が知らないこんな素晴らしい世界を知っているのかと感動した。男兄弟の中で育った高橋さんには全てが新鮮で美しく見え、憧れの対象になった。

〇工業高校(大阪市泉尾工業高校・色染科)を卒業して「美大に進んだ人から学校で型通りのことを学ぶより、自分でやりたい絵があるなら、その道を進んだ方が良いと言われたんです。勉強もあまり好きではないので、それなら勤めをしながら自分の絵を描いていこうと思いました」 ――染色関係の会社に就職して、試験室で働きながら絵を描き続ける。抒情画家の中原淳一や蕗谷虹児、マリー・ローランサン等の絵が師匠だった。「でも決して真似ではないんです。必ず『僕ならこうする』という視点で、先輩たちの絵から勉強し続けました」

――1年間、サラリーマンを続けた後、知人から漫画出版社を紹介された。当初は漫画家としてデビユーしたがやがて雑誌社の目にとまり、少女漫画や挿絵の仕事も増えていった。 「-―挿絵画家からは漫画みたいな絵だと言われていたようです。でも私にはそんな批判も耳に入りませんでした。ただもう自分が好きな少女の絵を描けるのが嬉しくて、嬉しくて夢中でした」 ―1963年・29歳の時、東京から千葉・佐倉市に転居、ここで結婚して家庭を持ちながら大好きな少女の絵を描き続ける。「真琴画廊」を開設。奥さんは原稿を取りに来た編集者だった。一男一女を育てあげ、高橋さんを献身的に支えてきたが、5年前に亡くなった。「ワイフには何でもやってもらっていたので、このまま行くと何もできない老人になってしまいます。少し体を動かすようにと、いい時期を見計らって先に逝ってくれたんじゃないかと思います。おかげで私はゴミ出ししたり、洗濯物を干したり、掃除したり、健康的な毎日を送っています」 ――絵を描くのは夜中が多い。鉛筆で下書きして水彩絵の具で薄く着色しながら何度も色を重ねていく。完成した少女はしっかりとこちらを見つめている。「私の描く少女はみな正面を向いているんです。それは見る人に絵と対話してもらいたいからなんです。見る人がハッピーな時は絵の中の少女も『良かったね』とほほ笑んでくれる。落ち込んでいる時は『元気を出して』と励ましてくれる。見る人によってどうにでも変わるように、正面向きで視線が合うようにしているんです」 ――少女画に花、鳥、動物たちがしばしば登場するのは、生きているものは皆一緒。ウサギは十年も長生きして最後は高橋さんの膝の上で亡くなった。今も『犬がふたり、猫がふたり』と人間のように表現する。 「私たちは生き物の命をいただいて生きています。私はブタさん、イカさん、ニンジンさんと呼んでいるのですが、それぞれが動物、魚、野菜の代表です。彼らが私の身体になるのですから彼らは私と一緒に絵を描いているのと同じです。そういう気持ちが私の絵で伝わればいいなと思っています」 ――家の雨戸の戸袋でムクドリの雛が巣立っていった。「庭に三羽の雛がいたので、近くに行って『よしよし』と頭をなでたんですよ。野生なのに人間に触らせてくれるなんて、まるで彼らからお礼を言われたようでしたね」 ――この平和なアルカデイア(理想郷)が少しでも長く続くことを祈らずにはいられない。 ● 今年84歳・白髪の真琴少年と、優しさの中に、どこか愁いを秘めてこちらを見つめる “少女の瞳”に 乾杯 !!




※ カラー写真「少女像」はPHPの口絵から




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