「世界堂」の前を通り過ぎようとした時、「お気に入りの一枚、大切な一枚、額装承ります」の宣伝を見て自分のお気に入りの一枚を思い出した。 青木繁の「ランプ」である。 この水彩画を初めて見たのは若い頃で、後年「背景に自身の人生に光を灯す役割を込めている」という解説を読んだ。 彼がこれを描いたのは19歳の美大在学中で、その後の不幸な生活を予感していたのだろうか。 この絵に接した時、水彩絵の具の使い方、質感の出し方、対象に迫る姿勢等、釘付けになって見入った。これまで多くの作家の作品に出会ってきて、好きになった絵は多い。 その中で、平凡な対象に迫り、緻密に描き上げている「ランプ」はお手本となる力を持っている。 彼は「海の幸」のような傑作を残しながらも、徐々に荒んだ生活と病魔に侵されて、筆の冴えも無くし、20代で生涯を終えた。けれども、この作品が持つ光と力は決して衰えてはいない。
「ランプ」青木 繁1901 河村美術館