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小石浩治

アンドリュー・ワイエス展

2019/3・16~5/16 於;美術愛住館一周年記念(新宿区愛住町・地下鉄駅:四谷三丁目)

 アメリカのリアリズム絵画の巨匠として知られたワイエス(1917--2009)の水彩・素描作品展が 美術愛住館(注1)で行われた。5/21日には館長・本江邦夫(美術史家)の作品解説があった。  Ⅰ. ワイエスは1917年ペンシルベニア州チャッズフォードに生れたが生来病弱で学校へは行かず、父(挿絵画家)の指導もあり、9歳から水彩をはじめ、早くも12歳で出版社からイラストの注目を受けた。1937年20歳の時、ニューヨークで初個展を開いたところ作品が一日で完売になったという。  1939年第二次大戦勃発の時、ワイエスは入隊を志願するが身体虚弱で不可。メイン州ポール・クライドで夏を過ごしている間、近くのクッシングで当時17歳のベッツイ(後に妻となる)と出会う。  彼女の紹介でオルソン姉弟(クリスチーナ、アルヴァロ)を知り、オルソン家を描き始める。  生涯、ワイエスは一度もアメリカから出ることなく、故郷のチャッズフォードと避暑地のクッシングの二つの町だけで作品を描いた。現在、アメリカ合衆国国定歴史建造物となっているオルソン・ハウスは、1750年にオルソン船長が建設し、1870年にいくつか改修工事が行われ、3階が増改築された。漁師宿としても賑わったことがあった。その後オルソン船長の子孫であるアルヴァロとクリスチーナ・オルソンがこの家を引き継いだ。ワイエスは1939年から1968年まで、この家を訪れて多くの絵画、スケッチを描いた。代表作「クリスチーナの世界」は、終戦後間もない1948年に描かれ、翌年ニューヨーク近代美術館(1929年創設)に購入され、同館の門外不出の絵になっている。ワイエス:享年91歳。  今回展は、丸沼芸術の森(注2)所蔵の「オルソン家=オルソン・ハウス・シリーズ」として水彩画、素描40点を厳選し展示するものであった。

1939年「小舟の傍の二人」

1957年「オルソン家の納屋内部」

      1961年「穀物袋」

           1967年「オルソン家の朝食」

 上記いづれも水彩。

Ⅱ. 「クリスチーナの世界」 <ワイエスの言葉>(作品解説ボード)から------.    <オルソン家はニューイングランドのシンボルだ。そこに暮らす姉弟もまた忍耐強く、威厳があり独特の頑固さはニューイングランド気質そのものだ。―――(姉)クリスチーナ、(弟)アルヴァロともに素晴らしい人だった。家に出入りすることを許して貰い、自由に部屋を歩き回った。きちんとしたアトリエを必要としない私は、オルソン家の一隅をアトリエとして使わせてもらった。 「クリスチーナの世界」を描いた時、私は彼女の身体が不自由であるということを意識すらしなかった。変な話だろう? 私はただ、この人は単純に素晴らしい人だと思っていただけだ。だから戸外でポーズをとってもらった時、彼女の身体が不自由であることに気づくことすらなかった。>

● 昔、「クリスチーナの世界」を見た時、別れを告げる男に追いすがる女性の姿・と思ったが、女性の目線、建物との距離を考えると、作者はもっと別な「世界」を暗示していることに気が付いた。彼女が目指す「世界」は、丘に建つ「家」の“苦い想い出”か“希望の灯”か。解説では当時55歳のクリスチーナは下肢が麻痺していたため、草原を這って渡る彼女をみてワイエスは心を打たれ、その姿を永久にカンバスに残したい衝動にかられたものだ。何枚か描いた習作には、彼女の腕と手のみを描き、身体は妻ベッツイ、髪の毛は叔母のエリザベス、靴は妻が見つけてきたドイツ軍の靴を参考にしている。   ワイエスは<絵の中には対象から感じる声や会話、思い出が含まれていなければならない>と語る。  それで言えば、私にはクリスチーナの「悲痛な叫び」が聞こえてくる。更に気力を振り絞って真っ直ぐに「家」を目指して這うように進む女性・・。  ワイエスは物事を「ありのまま」描写し、「心の眼」で見た「景色」をキャンバスに表現したのだ。  クリスチーナへの、彼の個人的な視線を感じると同時に、ワイエス自身にしかわからない「世界」を描いたのではないか。有名な絵だが謎も多い作品である。

(上図;「クリスチーナの世界」1948年テンペラ、82cm×1.2m ニューヨーク近代美術館所蔵)

「クリスチーナの世界」習作(1/6) 1948年

左図; 右図;「オルソン家」1969年

注1愛住館= 評論家・堺屋太一と妻・画家の池口史子の居所を改装し,2018/3に開館した。 注2,丸沼芸術の森(埼玉県朝霞市)=株)丸沼倉庫社長・須崎勝茂が若いアーチストの支援を 目的として、1980年代前半に設立。勉強のために多くの美術品を収集。特にアンドリュー・ ワイエス、ベン・シャーンについては国内有数の作品を所蔵している。

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