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  • 執筆者の写真東京黒百合会

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文楽(人形浄瑠璃)鳴響安宅新関勧進帳の段


               小石浩治


Ⅰ. 昨年11月末、伝統芸能の本場・大阪に出かけ、国立文楽劇場の文楽(勧進帳)を観賞した。能は1300年半ば頃、観阿弥によって確立され、文楽は1684年、大阪で竹本義太夫により確立され、歌舞伎は元禄年間(1688~1704)に江戸・坂田藤十郎、市川團十郎等により大成された。文楽は、もともと「語り物」であった浄瑠璃と、人形芝居が江戸期に一体化して生れた浄瑠璃。文楽はその人形浄瑠璃の代名詞になっている。文楽という名は、19世紀に活躍した興行師・植村文楽軒が始めた文楽座という劇場名にちなんでいる。

 歌舞伎(勧進帳)は、能「安宅」を題材に、7代目市川団十郎が1840年に初演したもので、奥州平泉に落ち延びて行く源義経と弁慶の一行が、安宅の関を通過する際の攻防を描いている。能は“力”で突破しようとするが、歌舞伎は“義理人情”で関所を抜けると言われる。

(下写真①=弁慶が仲間と一緒に力ずくで対決、②=弁慶が仲間を押しとどめる場面。)


   ① 能舞台


   ② 歌舞伎舞台


 能楽は創成初期から時の権力者によって保護されてきたが、初期の歌舞伎は、能楽に大きく影響を受けつつ、大衆にウケるために貪欲に演目や舞台装置を考え、能楽の“いいとこ取り”をしながら発達した。文楽も同じ方向で発展してきたもの(立正大・矢内賢二氏)と評する。


Ⅱ. 兄・源頼朝に嫌われた義経は、家来の弁慶等と奥州(岩手県)へ落ち延びようとする。主従一行は、山伏と強力(ごうりき)に変装、安宅の関(石川県小松市)を通過しようとする。関守の富樫は、義経一行が山伏に変装していると言う情報を得ているので、一行を怪しむ。旅の目的を問われた弁慶は、寄付を募る“勧進”の旅と答える。富樫の詰問への淀みない返答。(山伏問答)。


弁慶の堂々とした様子に、一旦は関所を通そうとするが、一行の中に義経に似たものが居ると気付き一行を止める。弁慶は「お前のせいで疑われた」と金剛杖で義経を容赦なく打ち据える。富樫は弁慶のウソを見抜いたけれど、主君への必死な思いに心打たれ、武士の情けで関所を通す。・・関所を後にしてやれやれと一息つく主従一行。弁慶の機転を皆がほめるが、弁慶は涙ながらに詫びる。もとより、義経は弁慶を責めることなく、自分の武運の無さを嘆くばかりだった。一行が立ち去ろうとしたとき、富樫が戻ってきて、先ほどのお詫びに・と酒を持ってくる。弁慶は盃を受けて大酒を飲み、昔話に花を咲かせ、舞い踊る(延年の舞)。舞いの合間に、一行に合図して 先を急がせる。




一行が遠くへ行ったのを見届けると、自分も身支度して急ぎ主従を追いかける。この時、

太夫(7人)三味線(7人)の盛大な合奏に送られ「飛び六方」で舞台?花道を引っ込む――。

300年以上続く伝統芸能・文楽は「語り」と演出を担当の太夫、三味線、人形遣いで構成

される。花道の横で、弁慶を遣う3人の人形遣いが、呼吸を合わせて足遣い、左遣い、主遣いの役割をこなしていく姿、人形遣いの真価を、ハッキリ見ることが出来た。

人形=現世の人物を表現。同時に太夫7人の掛け合いと七挺の太棹三味線による義太夫節が

観客を異世界に導く。歌舞伎はイケメン役者に観客の眼がいくが、文楽は、人形の動きは

物語の中に生きる“人間”として、観客は“心の内”で見るのだ。

 

Ⅲ. 過日、TBS「関口宏の“一番新しい中世史”」で解説者・加來耕三(奈良大・歴史家・作家)が、京都・五条の橋は当時、無かったと言うのだ。弁慶は生年、出生地が不明で、史実から解るのは、比叡山の僧侶、義経に付き従い、文治5年に討死したことだけだと言う。

話を膨らませたきっかけは室町時代に成立した「義経記(ぎけいき)」といわれる。

昔、熊野詣でにやってきた姫君がさらわれ、子を宿し、生まれたと思ったらもう髪の毛、

歯も生えている。恐ろしくなった母は我が子を捨ててしまい、鬼若と名付られ比叡山に送られた。

比叡山では修行もろくにせず、無茶な行動を繰り返す暴れ者だった。童謡(唱歌)に歌う五条大橋は、天正18年に鴨川の上流にあった橋を豊臣秀吉が今の場所に移築したもので、義経と弁慶が生きていた時代には五条大橋は未だ存在していなかった・・とのコメント。

少年時代から心に描いてきた豪傑・弁慶について、かくも無残に夢砕かれると、今さら言って誰が得するのかと言いたくなる。想像力を発揮して物語を創り、どれほど観客と後世の人々を楽しませてくれたか・、「史実だから」と突き放すのではなく、歌舞伎・文楽の

制作者の創造力・演出力に敬意を表し、一言、賛辞を贈って欲しかった。


① 現在の京都五条大橋と河原町五条交差点の間にある中央分離帯に「義経と弁慶」の石像


② 平成7年郵便切手・「牛若丸と弁慶」の図・京都府(80円) 


③ 平成9年年賀はがき・(丑年に因み)「五条大橋の牛若と弁慶」木版画(小石作)

                                      


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