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執筆者の写真東京黒百合会

イタリア美術巡礼

|- かたつむり旅日記(5) - 長谷部 司


4月13日アレッツォ

アレッツォにはボローニャ経由の電車で昼過ぎに着く。 聖フランチェスコ聖堂に四時の予約を確認してから出かける。目当てはピエロ・デッラ・フランチェスカの代表作とされる聖十字架伝説の壁画である。このルネッサンス後期の画家につい ては数年前までは知ることもなかったのだが、複製の画を見て以来どうしても実物を見たくなってしまったのである。

フランチェスコ聖堂内部


透明感のある明るい色彩と幾何学的に配置された人物や構図、そして瞑想的な人物の眼差し等に他の画家の画にはない特別な魅力を感じていたからである。アレッツォもはじめての街であるが、実際の街が予想どおりだった験しは殆どない。だから刺激に溢れているし戸惑う。思ったより急な街路を辿って聖フランチェスコ聖堂に行き着く。 予約した四時からの三十分間の入館者が幸い七人しかいなかったので落ち着いて観賞できる。とは言え祭壇をかこむ左右正面の壁に三段にわたって繰り広げられる十枚の壁画を細部まで含めて三十分で見尽くすのはここでも無理な話であった。しかも中段から上段の画は双眼鏡でもなければよく見えない。焦りともどかしさになんども繰り返し十枚の画を眺め回したあげく、あとはただひたす らピエロの傑作十枚の実物の色彩と形態の溢れる空間に浸るばかりである。それに、ピエロの画に加えてこのフランチェスコ派の教会が信仰によってこの現代にまだ息づいていることが内部の佇まいから感じられて心温まる思いだった。ラヴェンナのモザイクは確かに美しかったが、その美しさが遺された教会自体はすでに死んだ遺物にすぎなかった。

フランチェスコ聖堂をあとにしてさらに坂道を登ると緩やかな斜面が広がる気持ちのいい空間に出た。これがロベルト・ベニーニ監督のイタリア 映画「人生は美しい」のいくつかのシーンに使われたグランデ広場だった。感動的な映画に相応しい美しい広場だった。500年前に描かれたピエロの画と現代のベニーニの映画という時代も表現の手段も全く違う芸術作品がそれぞれの美しさで与えてくれる感動の有難さに人間の精神の力と不思議とを思った。

グランデ広場



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