川は私のモチーフ
清水 全生(工学部土木45)
東京黒百合会に所属し絵を描き始めて10年程経った。主に、風景画を描いているが、最近、絵の中に川を入れることが多くなった。
近景の川の様子や周辺の木々、土提、橋、民家、遠くの山々等を好んで選択している。
関東甲信越の忍野村、上高地、安曇野、小諸、白馬村等へ出掛け、馴染みの桂川、梓川、鬼怒川、千曲川、姫川等をスケッチし、水彩や油彩画にしている。
貴方の絵のモチーフは何ですかと問われると、創作活動を起こさせる原動力、刺激、動機となる中心的な題材をモチーフと言うならば、私自身は川だと思っている。
しかし、幾度も同じような景色を描いても満足できないのが現状である。
川については、絵画の他にも色々な因縁が有り、仕事や川遊びにも思い出が沢山ある。
私は大学で河川工学を専攻した。卒論テーマは河川の掃流流砂量の推定で、大型の水理実験室で河床の砂の形状を観察し、流れた砂の量をバケツで測っていた。河川工学は難しい学問で高度な数学・数式の知識が必要とされたが、実験では肉体労働が主で、頭を使うことも無く卒業させて貰った。
その後、北陸出身の老舗ゼネコンに入社し、高速道路や地下鉄工事現場を経験して本社勤務となった。30~50歳台は国内外の各支店を回り、大学時代の不勉強を反省し、日々、専門書を片手に 、技術、設計等の難しい業務にも携わって行った。
そんな中、北海道の沙流川の河川改修工事の仕事を担当したことがある。沙流川は日高山脈から太平洋に流れる急峻な川で、台風一過で堤防等河川工作物が破壊し、付近の農地には大規模な洪水被害を及ぼした。私は灌漑用水の取水ための頭首工等の設計を担当した。地域の土地改良区や農協の人々に感謝された事と、自然の猛威に破壊された河川構造物の脆さを実感して記憶に残った。
また、30年程前に、山梨県都留市にセカンドハウスを持ち、週末には、家族で富士山の眺めや近くの桂川、鹿留川でアユ、ヤマメ、イワナ等の川釣りを楽しんだ思い出がある。そんなことで出逢ったお気に入りの川は私の心に残り、絵を描き始めてからはより一層、身近に感じる様になった。
近年は、河川災害が全国で発生し、関東では豪雨時の線状降水帯の発生による鬼怒川の提防決壊、令和元年の台風で千曲川が氾濫した洪水被害には心が痛くなる。
それでも、天気の良い日にスケッチブックを携えて、平穏な川を眺める時は至福の楽しみである。
自然の驚異や川が急激に変化する凄さ等を理解しながらも、いつか人の心に残る絵を描きたいと思っている。
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