(11.14~2.28・横浜美術館) 小石浩治
1989年の開館から30余年が経過した横浜美術館は、初めての大規模改修工事を実施し2021年3月1日から2023年度中のリニューアルオープンまで休館にするため、見納め展として、
横浜美術館の自主コレクションの公開のほか、愛知県美術館、富山県美術館の所蔵する20世紀を代表する絵画、彫刻等約120点を集めて展示している。タイトルの「トライアローグ」は、公立美術館3館が企画し、3者の話し合いによる展覧会と言う意味。その“3”をキーワードとして20世紀の西洋美術を「3章立て」、「30年区切り」の構成で展開せんとするものである。
3章とは、第1章[1900s―アートの地殻変動] 第2章[1930s ―アートの磁場転換]第3章[1960s―アートの多元化] として、第一次第二次世界大戦をはさんだ、20世紀の西洋の
絵画運動による作品のうち、横浜、愛知、富山3館が収集した作品を展示するものであった。
ちなみに各開館年次を見ると、
横浜美術館―― 1989 年 横浜博覧会のパピリオンとしてオープン
愛知県美術館――1992年 愛知芸術文化センター内に開館
富山県美術館――2017年 県立近代美術館(1981)の収蔵品を引き継ぐ
普段は自分の都合の良い日に美術館を訪ねるのだが、生憎、コロナ禍のただ中にあり、おまけに観覧日時指定予約制とかで入場制限があり、すっかり興ざめて鑑賞意欲を失っていたところ、自宅に居ながら見ることが出来る「鑑賞サポートアプリ」なるものを美術館が用意してくれた。
横浜美術館×野村総合研究所共同開発したもので、QRコードやURLからアクセスできる。
おかげで美術館学芸員による(大人向けの解説? )を参照しながら、以下、20世紀の西洋の画家彫刻家達の作品9点について、自宅でゆっくり観賞することが出来た。
1,パブロ・ピカソ(スペイン・1881?1973) 「肘掛け椅子で眠る女」1927年 横浜美術館蔵
パリで「青の時代」を展開、キュビズムの創始者となり、シュルレアリスム、新古典主義と
目まぐるしく変り、20世紀絵画へ重大な影響を与えた。この作品はシュルリアリズムの
影響を受けた時期の一点。46歳のピカソが17歳のマリー・テレーズと出逢って恋に落ちた年に描かれたものだが、モデルは特定されていない。むき出しの歯は、去勢の象徴としてシュルレアリスムの画家たちが好んで描いた歯の生えた女性器や、オセアニアの仮面との類似が指摘されている。
この口の表現には、既に不仲だった妻・オルガの姿が投影されているとも・・・。
※ピカソは、青の時代?バラ色の時代?キュビズムの確立?超現実主義へと作風が変化し続けた。
私生活面では7人の女性と関係を持ち、そのたび に画風が変わったとも言われる。
2,パウル・クレー (スイス生・ドイツ人)1879--1940「女の館」1921年 愛知県美術館蔵
カンデインスキー等が結成した「青騎士」と言うグループに参加し、光と形を色彩と線描で
表現すべく探求した。本作は、家や木々等を幾何学的な形に単純化し、色彩の濃淡で階層を
作ることで、画面に音楽のような、リズムが生まれている。クレーは音楽一家の生まれ、
自身もヴァイオリンの腕前を持つ。芸術は見えないものを見えるようにする」と語っていた
クレーは、絵画で目に見えない音楽を奏でていたかも知れない。
3,ハンス(ジャン)・アルプ (仏・1886--1966)「鳥の骨格」1947年 富山県美術館蔵
(ドイツ名)ハンスは第一次世界大戦が勃発するとスイスに居を定め、そこで芸術の既成概念を問い直すダダを立ち上げる。(ダダイズム=1910年半ばに起こった芸術思想、芸術運動)平面的な絵画を捨て、紙や布、木等を用いた半立体的なレリーフや柔かい形の彫刻を手掛けた。
本作も、有機的な形が変化し続ける自然の姿を表している。最愛の妻を事故で亡くした後、
悲しみに暮れて4年間も詩作にふけったアルプだが、ようやく彫刻制作を再開した作品である。
彼女の立ち振る舞いを鳥にたとえていたことからも、妻への眼差しを感じる。
4,ルネ・マグリット(ベルギー・1898―1967)「王様の美術館」 1966年 横浜美術館蔵
シュルレァリスムを代表する作家。シュルレァリスムの画家たちは人間の無意識や夢に意味を見出し、固定概念や秩序から人間を解放することを目指した。マグリットは、無関係な物や人を組合わせ、意外な場所に置いた幻想的な作品で知られる。
この「山高帽の男」はマグリットの作品に1920年代から住み続けている、と言う設定なのだそうだ。
男の身体に投影された森の風景。そこにポツンと佇む屋敷。彼が立っているのは、その屋敷の何処なのか、場所は? 時間は? ・・不思議な作品である。
5,アレクサンダー・コールダー(米・1898?1976)「片膝ついて」ブロンズ 1944年 愛知県美美術館蔵
紙や薄い金属板等、軽い素材を天井から針金で吊るしくるくる回転して形を変える作品。
この「モビール」と言われる形式は、今日もインテリア、玩具などにも使われているが、
その創始者と言われる。本作品は床に置く作品だが、六つのパーツが微妙なバランスで
載せたりひっかけてあるだけで、触ると全体がゆったりと動く。彼の彫刻の革新性は彫刻に動きを取り入れたところ。「色彩の魔術師」とも言われる。
6,モーリス・ルイス(米・1912-1962)
「ダレット・シン」アクリル絵具 1958年 富山県美術館蔵
カラーフィールド・ペインテイングとは、カンヴァス全体を大きな色面で塗った、色が
主役の片面的な作品のこと。ルイスは、地塗りをしていないカンヴァスを立てて、薄めた
アクリル絵具を上から下に流して布に染み込ませる技法で制作した。本作品も、何度も絵具を流していくつもの色の層を重ねている。ルイスは制作現場を誰にも見せなかったため、
本作の上下どちらを上にして絵具を流したのか、制作方法は未だ謎である。
※ ちなみにタイトルは、ヘブライ語のアルファベット2文字で、作家の死後、妻が付した作品番号とのこと。
7,フランシス・ベーコン(アイルランド・1909?1992)「座像」1961年 横浜美術館蔵
抽象表現主義的な絵画が主流だった時代に、半獣半人の怪物や歪曲した肖像画等を描き続けた。親しい恋人や友人の写真や記憶をもとに、形を歪めることで人間性を捉えようとした。本作のモデルは、当時恋人だったピーター・レーシー(元空軍のパイロット)と考えられるが、足を組んで腰かける様子や物憂げな表情から、本作の描かれた翌年に亡くなった彼の神経質さ、不安定さがうかがえる。
8、ジョージ・シーガル(米・1924?2000)
「ロバート& エセル・スカルの肖像」1965年 愛知県美術館蔵
石膏を染み込ませた包帯で洋服を着た人体から直接型をとる手法を発案し、一貫して人物像を制作した。信号を待つ人、ベンチで憩う人等、ごくありふれたポーズの人物像と、家具や壁等の環境物を一緒に並べることで、日常生活を切り取り、その空虚さを浮き彫りにした。本作は、美術収集家のスカル夫妻の注文作品ながら、粗削りな再現性と彼等の富を象徴するようなヴィクトリア様式のソファ、真っ赤な背景、二人の微妙な距離感が、当時の文化的階級の典型を嘲笑しているかに見える。
9,アンデイ・ウオーホル(米・1929?1987)
「マリリン」1967年 スクリーンプリント 10点 富山県美術館蔵
大量生産・大量消費される製品やスターのイメージを、シルクスクリーン/版画技法で複製することで、大衆文化と芸術の境界を曖昧にしている。同じイメージが大量に並ぶさまを、冷ややかな視点で見つつ、面白がっているともいえる。本作は、1962年にマリリン・モンローが突然の死を迎えたニュースを聞き、すぐにこのマリリン連作を開始した。大衆に消費されるスターの悲劇的運命を暗示しているかのようである。
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