小石浩治
巣ごもりの中、届いた雑誌PHPに「1日が楽しくなる秘訣」と言う特集記事を見つけた。
今時、そんな“特効薬”はないと思いながら目次を見ると、幾人かの執筆者の中に柴崎春道氏
の名前が眼にとまった。柴崎氏は、今は閉校となっている 元講談社・フェーマススクールズ(KFS)のインストラクターである。現在、柴崎氏は、YouTube で「水彩画教室」の動画を配信しており、チャンネル登録者数も75万を超える人気の水彩画家である。その昔、KFSの通信講座や実習講座に学んだことがあり、懐かしく読むことが出来た。
コロナ禍中、皆様に何か参考になればと思い、以下に紹介させていただきます。
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―「今日、ここ、自分」を楽しくしよう―――柴崎春道氏(水彩画講師)
◯「お父さん、YouTubeってのがあってね。
お父さんの展覧会はお客さんが沢山来て下さるけど、どんなに多くても千人くらい。
YouTubeだったら、もっとたくさんの方に絵を観てもらえるよ」70歳になったある日、息子からそういわれて、動画投稿サイトYouTubeに水彩画の描き方を配信するようになりました。有難いことに現在75万人以上の方にチャンネルを登録していただき、その半数が海外の方です。
「その年齢から新しいことを始めるなんて、すごいですね・などとよく言われるのですが、最初から抵抗はありませんでした。
昔、美術の通信教育で講師をしていた時に、ビデオを使って授業していたので、カメラの向こうに生徒さんに語りかけながら実演するやり方は、私にとってはごく自然な事なのです。
それに、私の一番の願いは、一人でも多くの方に絵の楽しさを知ってもらうこと。
時代によって伝える方法は変わっていきますが、私が伝えたい想いはずっと同じです。
どうすれば観て下さる方に喜んでもらえるのかを考えているだけでワクワクします。
自分の好きな事、「これがやりたい」と思うことに向かって突き進む。人生においてこれに勝る幸せはないですね。
小樽運河を描く 水彩で描く日本の風景
◯ 私は千葉の貧しい農家の生まれで、末っ子の長男です。本来なら農家を継ぐべきなのですが、高校3年生の時、田植えをしている両親に向かってこう叫びました。「絵を学びたい。東京に出たい」。絵を描くのが好きで、どうしてもその勉強をしたかった。
もともと両親は私に寛容で好きなようにさせてくれましたが、この時ばかりは驚いたと思います。 ただ、田んぼの畦道に立つ私に帰って来た言葉は「そらぁ、行った方がい!」。
嬉しかったですね。大学卒業後は絵画の通信学校に講師として就職しました。
しかし私は東京芸大出身ではないうえに画歴もなく、全く仕事を任せてもらえません。
辛い日々が続きましたが、丁度、子供が生れたばかり。逃げ出すことも出来ませんでした。
「これは自分が選んだ道だ」。腕を上げ、実力を認めてもらうしかないと覚悟を決めました。誰よりも多く、速く、丁寧に絵を描きました。他の人が1枚絵を仕上げる間に、3枚は描く。それを繰り返していると、仕事を任されるようになりました。好きな絵で生きる道が開けたのです。自分の好きな道を突き進むにはしんどいことも当然ありましたが、あの時に画いた量が、今の私の血肉になっています。
◯ 四十年来、毎年個展を開き、絵画教室も続けてきました。いずれも今は、コロナ禍で開催できなくて残念ですが、それでも毎日楽しく過ごせています。それは、私が毎朝実践している習慣のおかげでもあります。私は朝、目覚めると、まず「こうなったらいいな」と、「今日、ここ、自分」が楽しくなる様な事を考えます。 具体的に紙に書きだすこともありますね。そしてやり遂げた時の最終形までイメージします。 例えばYouTube なら、動画を観て下さる方の喜ぶ顔を思い浮かべます。そして、実際にそうなるにはどうすればいいのか頭をフル回転させる。「今回は木を描こう」「外でスケッチしてみよう」などと、今日一日の課題を自分に与えるわけです。その時、昨日やったことと変化をつけています。同じことを続けると、観て下さる人も自分も飽きてしまう。ほんの少しでもいいので、常に自分を新しくする。そうやって知恵を絞るのが本当に楽しい。「ほかの誰でもなく、自分のためにやっている」と思える時間が一日の中にあると、生活が豊かになると思います。
朝一番に「今日、ここ、自分」が楽しくなるようなことを考える、書きだす。
そして実際にやってみる。それが、一日を楽しく過ごすための私の習慣です。
――雑誌・PHP no877 /6月特集:「一日が楽しくなる秘訣」より
注)柴崎春道氏:(水彩画講師)1947年千葉県生まれ、和光大学芸術学科卒業後、絵画通信教育で講師として勤務。毎年個展開催。2001年文化庁派遣在外研修員として渡米。元KFS絵画科講師。
2017年よりYouTubeで水彩画の描き方「水彩チャンネル」動画配信。日本美術家連盟会員。
下図・柴崎春道氏作品。会員誌「フェーマス」から。
「遠雷」 1999年
「海辺に近い白い家」・2002年米国留学時スケッチ
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