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執筆者の写真東京黒百合会

大谷敏久 個展

(2020/11月10~15. 銀座アートホール)

                                     牧野尊敏

「思い出の絵画と共に大谷敏久展」と題し、銀座のGAHで 故)大谷さんの百歳展が開催された。

昨年99歳の白寿を記念して同会場で個展を催されたことはご存知のとおりだが、今回は百歳記念とし会場の1F、2Fの全室をフルに利用し、大小合わせて水彩画70点余りが展示された大展覧会である。これは生前の大谷さんの念願(百歳展)をご遺族が見事に果たされたものである。

今年5月に百歳を迎えた大谷さんは、本来は元気に来館者を迎えてくれる筈だったのが、無念にも翌6月に他界、今回は遺作展になってしまったのが大変悔しく寂しい限りである。

ご本人もさぞかし天国で残念なお気持でおられるに違いない。

題名カードには制作年が付記してあり、制作時の比較で大谷さんの画風の変化が、若い頃と晩年の頃との違いを読み取れるような気がした。会場には80歳を越えられて描かれた作品が比較的多かったので、年をとってからの意気盛んな制作意欲、気概を一層強く感じ、「年配者の多い我々会員に対し、一層頑張って描き続けてください」と言われているようであった。又会場には、スケッチブックの一部も展示され、ご本人の遺影も置かれていたので、すぐそばにご本人がいるような身近さも感じた。大半は、今年の東京黒百合会関係の展覧会や公募展に出展されたものだが、改めてまとまった形で一堂に会した絵を拝見すると、絵の質の高さに加え、画業のすばらしさに圧倒される。

以下、私が魅かれた作品について感想を述べてみたい。

                      

先ず作品「はれる(荒川堤)」は1997年、77歳の時の公募展受賞作品。

油ののっている頃の作品で、白寿展の案内状でおなじみの作品。空の迫力に圧倒される。

描く技術はもとより、発想も独創的でその捉え方はプロ作家級そのものだ。特に水辺と空の配色が特徴的で、白の扱いの表現は抜群なものを感じる。

白色が画面に力強さを与えている。

                  

次の作品「たそがれどき(ルクセンブルグ市郊外)」は2015年、95歳の作品で、今回の案内状の絵になっている。具象画を心象的に表現されていて、私の好きな作品の一つだ。俯瞰絵で遠方に延びた街並みの先上方から差し込む光が主人公。絵全般から受ける表現が何とも言えず、色々なことを暗示している。

まるで「天上の神から地上の民に目覚めよ」と言っているようで、世界観において普遍性があり、ある意味では宗教性も感じられ、後世に残したい大谷さんの傑作のひとつと思う。

作品の「桜が咲く頃(町田)」は2015年作。

この絵は、桜に焚火の煙が微妙によい組み合わせになっていて、身近の風景をコンパクトな絵にまとめた作品である。この絵で感じたのは、焚火が農村の風景を思い起こし、桜と相まって、日本の典型的な原風景を想起させていると思うからだ。単純な構成であるが、この絵も白をうまく使いこなした作品の一つと思う。


他にも語りたい作品が多くあり、どれも素晴らしく筆舌に尽くしがたい作品ばかりであった。いずれの作品も白を基調にしてまとめられていて、色々な色とのバランスが何とも

言えない魅力を感じる。大谷さんは、研究熱心な方で、生前お会いするたびに絵画論のうんちくを吐露されていて頭の下がる思いをしたものだ。100歳まで絵心を持ち続け、体の動く限り絶えず描き続けた行動力は驚くと同時に、我々へ多くの刺激を、励ましを、そして多くのメッセージを残してくれたと思う。本会にこのような方がおられたということは大変誇りに思っている。


現在、世はコロナ禍にある現状で、会員相互に直接会う自由な交流の場を持てない環境にあるのが残念であるが、これからも大谷さんのことを忘れずにその意思を受け継いで、皆さんとともに本会を盛り上げ、絵を描き続けることに邁進したいと思います。


☆       ☆    ☆


「緑陰を想う」水彩・F20 2012年「―冬の雨の人影のない新宿御苑を徘徊して何時もの

鈴懸・プラタナスの並木を珍しく横から抜けた時に 閃いたモチーフ。♪ヘンデル曲・オンブラマイフ・懐かしの木陰―」 (大谷敏久/記念誌コメント)。 

本図は東京黒百合50周年記念展時の出品作。

  この時、大谷さんはフルート、ご子息はキーボードと親子で演奏され、50回展を盛り上げてくれた。                   

                  

    “本当にありがとうございました。ゼロになって、ニュープレイになるので、

    皆様、またお目にかかりましょう。さようなら。“ 大谷敏久  

※ 上記メッセージは、大谷宣子様、大谷敏郎様、岩田時子様から皆さんへと託されたものです。

                     (会報担当:小石記)   

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