【2020年10/30~11/22 国立新美術館】 小石浩治
「―コロナの収束がなかなか難しい状況下で、我々日展作家は社会に対してどうあるべきか、今こそ日展はコロナで疲弊した社会に対し美を届け、人々の心に寄り添える美術、芸術の力を発信すべきだとの思いから、日展五科が力を合わせ助け合って、休まず展覧会を開催する――」
(奥田小由女日展理事長/「日展ニュース」から)の決断により、予定通り展覧会は開催された。今年も 日本画、洋画を重点的に見たのだが、コロナ禍のせいか、全般的に大人しい感じで特に人物像が多いように思った。私の印象に残った作品(写真)を以下に揚げたが、審査員(各科18-19名)による受賞理由も日展公式サイトに載っていたので合わせて記した。
【改組・新第7回日展(令和2年度)特撰受賞者と授賞理由/10/29発表 から】
Ⅰ、第一科(日本画)特撰作より
①「刻の痕跡」田中達也作・・・何処にでもある廃屋の作品です。テーマである刻の流れを
岩絵の具に気持ちを込めて様々な技法を用いて制作している痕跡があり、両面の奥より作家の気持ちがにじみ出て来ているように感じさせる作品である。(審査員評)
②「初 詣」宮原 剛作 ・・・初詣の願掛け状景を表した画で、二人の姿と影とのダブルで多くを締め、大胆な構図でまとめている。また年の始めと作品の仕上がりを祈る内面的な
ダブル願掛けが伝わってくるようだ。(審査員評)
第二科(洋画)特撰作より
③「手・GA・MI」 志水和司作・・・メールが当たり前の今、この静謐な空気の中、
少女は誰に手紙を書こうとしているのか。適切な描写力と統一された色彩による説得力
ある作品だ。(審査員評)
④「マイナスの世界」池上わかな作・・・凍てつく湿原に立ち、寒さをしのぐ姿があたかも
未来を見つめて祈っているようにも見える。女性と左右に広がる湿原がダイナミックな
構成を成し、背後に傾けた女性の身体を水面から覗く倒木が支えている。(審査員評)
Ⅱ. 画家・樋口 洋氏のこと。
洋画コーナーで目にとまったのは、函館・ハリスト正教会から函館港を望む景色、“ああ、これは樋口 洋の絵だ”とすぐに判り、傍に寄ったら、なんと名札に黒いリボンがついているではないか。帰宅後調べたら、樋口氏は、1942年神奈川県に生まれ、1967年に示現会展入選、
楢原健三に師事、1987~93年日展特選,96年日展審査員、97年日展会員、2010年示現会理事長、
12年日展内閣総理大臣賞受賞、そして今年の6月11日に亡くなったと解った。享年77歳。
樋口 洋の絵は、わりあい北海道の風景が多いと記憶しているので、道内の風景や雪景色を
もっと見たいと思っていただけに、こんなに早く逝くとは・・。とても残念でならない。
本棚の隅に眠っていた絵画雑誌(“一枚の絵”)を思い出し、若き日の樋口洋の作品とコメントを以下に掲げることで、哀悼の意を表したい。
――残雪の舞う早朝、小樽駅前から私一人だけのせたバスが行く。真っ黒な石狩湾の海を右に見せながらいくつもの白い岬をうねるように祝津へ向かう。小樽国定公園の祝津港、小さな港ではあるが、ここは稜稜たる風景と出逢える。美しい海岸線が続く積丹半島のふところにつつまれ、断崖にへばりついたような家が並び、かってニシン漁港として繁栄を誇った町であり、今はその名残りの番屋であったニシン御殿が雪と風にさらされている。やがて陽が差すころ、厳しくそして凜とした風景が現れてくる―――
第7回日展出品作
1986年“一枚の絵”巻頭特集“岬”から「白い岬」
祝津;北海道・小樽の北郊に位置する。祝津海岸はニセコ、積丹、小樽海岸国定公園の起点.
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