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執筆者の写真東京黒百合会

田中一村 展

 千葉市美術館 (期間;1/5~2/28迄)     小石浩治

 千葉市美術館開館25周年を記念して「田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品」が開催されている。田中一村(1908?1977)は千葉市に20年住み、50代になって奄美大島に移住し、亜熱帯の花鳥や風土を題材にした独特の日本画を描くも、生前それらの作品を公表する機会もなく無名のまま没した。当館は2010年に「田中一村展」を開催したが、それから10年、美術館に収蔵された一村の作品は寄託を含めて100点を超え、2018年度には川村家より残る作品・資料の寄贈を受け、今回、それらの総てを展示することとしたものである。



「アダンの木」絹本彩色、156.×76cm  個人蔵


 古い話になるが、「一村展」は都内の美術館でも開催されたことがあり、当時、作品をみて大いに感激したものであった。

 2001年5月、“画家たちの夏”大矢鞆音著(講談社刊)が発行され、志半ばにして倒れた五人の作家の道程を、資料や遺族の方たちの証言を集め、その上で著者・大矢氏自身の感性をもって書かれたもの。ちなみに著者の父・大矢黄鶴(日本画家)もその中の一人である。この本を買って生意気にも読後の感想文を著者に送ったら、後日、著者から丁重な礼状が届き、併せて田中一村記念美術館オープンに合わせて刊行した・と言って「一村の奄美」(田中一村作品世界)・NHK出版の小冊子を拙宅に贈っていただき感激は倍増した。

 この年の9月30日、奄美大島・奄美パークが開園、同時に田中一村記念美術館が開館、園長兼館長として、宮崎緑が就任した。(元NHKニュースキャスター、現・東京都教育委員)

 「画家たちの夏」については、日を改めてご紹介することとし、今は小冊子の「アダンの木」(千葉美術館ポスターになっている)について、大矢氏の解説を一部抜粋してご紹介したい。 千葉市美術館は、「アダンの海辺」1969/昭和44年作として展示するが、 大矢鞆音氏は、前記の著書には昭和48年(1973 年)の作「アダンの木」と記している。

――「閻魔大王への土産」と一村自身が評したこの一作「アダンの木」もまた、水平線の彼方を見つめる構図となっている。手前の海岸線の量感溢れるアダン、明るい空を遮るように立ちはだかる大きな暗い雲。迫りくる嵐の前触れか。一村の心のうちにある、ある種の不安感、遠い想いの世界というように見ることも出来る。すべてを振り切って渡って来た南の島の生活だったが、病に倒れて感ずる、頼る人の少ない生活の孤独は、想像を超えるものがあったに違いない。・・・ 一村という画家の一途な生き方の中に、多くの人の心を惹きつけてやまないものがある。各々が、自分にはできえなかった人生の決断、全てを削ぎ落したシンプルな生き方を、一村が果たしていることに共感を覚えるのであろう。――以下略――

※大矢鞆音=1938年東京生、早稲田大卒、NHK入社、「趣味の園芸」他テキスト編集長を経て取締役美術部長、鹿児島県「田中一村記念美術館」設立に協力、NHK出版編集顧問。

津和野町立「安野光雅美術館」館長。

※アダン=亜熱帯から熱帯海岸に群落する常緑小高木。パイナップルに似た外観だがほとんどが繊維質。


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