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執筆者の写真東京黒百合会

私のモチーフ

                                       

Das gibt’s nur einmal

――ただ 一度の出会い ――― 喜多 勲


 大学の定年間近、油絵を始める決心をして新宿の「朝日カルチャーセンター」へ出かけた。

 教わったのは鳥居敏文先生、人物を描く方である。長く静物や人物(主に裸婦)を描いていたが、傍ら3号のスケッチブックでいわゆる淡彩を楽しんだ。これはフェルトペンで輪郭を描き、白をたくさん残して水彩絵の具を軽く載せるだけの技法である。身近の風景のほか、ヨーロッパアルプス、それにパリセーヌ河溿の古本屋、等々、・・を写生し、これらを家で油絵にし、鳥居先生に見て頂いた。


ハイリンゲンブルート(チロル、オーストリア)はオーストリア アルプスの最高峰グロスグロックナーを背負うオーストリアの景勝地である。

 ここで、姉は小2,妹は6歳の二人の姉妹に会ったのは1997年の秋だった。(右・写真)

 人なつっこい二人とは、ブロークンのドイツ語ですぐ仲良しになった。

 今日はお勉強と言うので、何のお勉強?と聞くと「水泳」、日本の「塾」とは違うようである。

 後年、二体の日本人形のクリスマスプレゼントを贈ったことがあった。


無事につくかどうか案じたが、程なく姉から学校で習ったばかりの英語で日本人形の賛美とお礼の返事が来たので安心した。

クリスマスカードのやり取りはその後長く続いたが、それもいつしか途絶えた。

 数えてみれば二人ともいい娘さんである。

 元気で居るだろうな、いつも彼女らの幸せを願っている。かすかな哀感の想いとともに。


 ハイリンゲンブルートからバスと電車を乗り継いで(ハイリンゲンブルートには鉄道はできていない)ジュネーブに向かう途中、ドイツ語を話す男性と同席した。年齢は私くらいか。

  ハイリンゲンプルートの話が弾んだ。

  女の子の話も。

  合唱をやろうということになったが、一緒に歌える歌なんてザラにはない。

シューベルトは寂しすぎる。出てきたのは、映画「会議は踊る」の主題歌「唯 一度だけ・」


  Das  gibt’s nur  einmal

      Das kommt nioht wieder

そう、出会いはただ一度だけ、二度とは来ない。

 もう二十何年も以前の話である。

 くだんの男性もすっかり年をとったに違いない。

 元気でいて欲しいものである。


   

 編集注:「会議は踊る」・1931年ドイツ映画。

1814年のウイーン会議を時代背景にしている。

映画の主題歌について付け加えると、

――ウイーンの町娘、手袋店の売り子クリステルが、

ひょんなことからロシア皇帝アレクサンドル1世と恋に落ちる。

その恋が破滅に終わるであろうとことは解っていても、単調な日々が続いて行くと思っていた人生で、身分違いの人に愛されるという信じられない幸せはきっと二度と起こらない、あり得ない一度きりのことだから精一杯受け入れよう・・とうたったもの。

  

歌詞を要約すれば----------

――ただ 一度だけ 

    もう二度と来ない、ただの夢かも知れない。

    人生は ただ一度きりのもの、

    明日にはもう消えているかも知れない。

    人生は ただ一度きり。

    花咲く春も、ただ一度だけ五月に来るでしょう。

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