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私のモチーフ

  • 執筆者の写真: 東京黒百合会
    東京黒百合会
  • 4月5日
  • 読了時間: 3分

(2026/04) 鏑木照美

 

 下の作品2点は、数十年前、主人のタイ日本大使館勤務の頃、初めて油絵具を使って描いたものです。絵を習い始めて講師から課せられたのは、思いもよらずデッサンでした。1枚描くのに3~4日を費やし20数枚を描き終えて、ようやく油絵具を使うことを許された時の作品です。対象の花を見つめながら、思いどおりの色彩でカンバスに描いた時、念願が叶った気持ちは、これまで味わったことのない大きな喜びでした。



「ブーゲンビリア」油彩 F4


「ラン」油彩 F4


 主人の4年におよぶ勤務が終わり帰国することになりました。帰国が決まると大部分の方は喜ぶのですが、私はそのままタイで絵を続けていたい気持の方が強かったのです。バンコックから日本に戻って新たな先生の指導を受けたり、仲間と合同展を開いたりしていました。その後、息子が北大の農学部に在籍していたことで、2017年から東京黒百合会に入会させていただき現在に至っています。

 2019年に新型コロナウイルス感染症が発生、2020年には世界中で6億人もの人々に感染が拡大しました。日本でもまたたく間に感染が拡がり外出禁止令が出ました。当時私はコロナではなく一時体調を崩しました。その為、必然的に家にいることが多く安静を余儀なくされる生活を送っていました。東京黒百合展も休止となっていましたが、2022年の60回展から再開の知らせが届きました。

 ほっとすると共に自分の体調も回復して、何をモチーフにしようかと考えた時、思い浮かんだのがかつて「巨樹の会」で訪れた山梨県北杜市にある山高神代桜でした。現在住んでいる八王子からはJR中央本線で甲府の先の日野春駅まで行き、そこからはタクシーで約10分の實相寺にあります。樹齢二千年とも言われるこの老樹に対峙した時、長い年月を生き抜いてきた強靭な姿に見とれてしまいました。その幹の痛々しいまでに朽ち果てた姿とは異なり、内部に満ちている不思議な力強い生命力に心を打たれました。幹に直接触れることはできませんが離れた所からでも、その力は十分に感じられました。しばらく見入っていて、帰りの時間が気になり、急いでスケッチブックにコンテを走らせました。その間も老樹の「気」がどんどん私の身体に入ってくるような感覚になりました。

帰宅後、用意してあった30号のキャンバスにすぐ向き合いました。桜のない時期に対峙した幹を中心に、桜が咲いている時の記憶を描き加えました。

 この時、役立ったのが新しい絵具“ヴェルネ”というものでした。詳しくは分かりませんが、戦前この名称の絵具があって、戦後設立のホルベイン社が当時と現在の技術を統合して作られたものだそうです。蓋が開け閉めし易いスクリューキャップになっていました。幹表面の複雑な樹皮を描くのに「ローアンバー」を選び、これを基本色にして他の色を混ぜながら、幹の表現に迫ろうと試みました。


「千年のつぶやき」 油彩 M30


 30号のカンバスは初めて描いた4号と違って、それなりに時間もかかるのですが、時間の経つのも忘れて没頭することができました。当時、体調が戻ってから間もないにも拘わらず、体調のことなど何も気にならないで集中できたのは不思議な感じでした。

 幸い大事に至らず身体が元に戻った事、そして東京黒百合展が再開した事は本当にうれしいことでした。この時の気持ちは、ちょうど最初に油絵を描き始めた時のものにそっくりだったような気がします。この気持ちを忘れずに大切に持ち続け、これからも新たな題材に取り組んで描いていきたいと思っています。


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