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  • 執筆者の写真東京黒百合会

第5回(2023)東京黒百合小品展総括 長谷川 脩


 世界保健機関(WHO)が2021年1月に出した新型コロナ「緊急事態宣言」は“今後も警戒を”との注釈つきで終了を発表したのが、今年の5月5日だった。3年余におよぶコロナの影響は東京黒百合会にも多くの弊害をもたらした。罹患を回避するための不活発な日常、それに伴う病気の発症など、誰もがそれ迄と異なる状況に置かれた。このような状況で小品展が開催できるかどうか懸念された。また、1月に柴野さんが、4月には会津さんが亡くなられた。このような状況下、新作でなく過去の作品でも、また、会場に来ることが難しい場合は作品を送ってくださるだけでも、と説得まがいの懇願で、最終24名、49作品が揃った。

加えて柴野さん、会津さんのご遺族にもお願いし1点ずつ作品を出すことに快諾をいただけたのは大変ありがたいご厚意だった。

 柴野さんのご長男が送ってくれた作品は「田植えの頃」F6で、安曇野の懐かしい風景画だった。


        「田植えの頃」油彩 F6



「祈る」油彩 84×38 変形


会津さんの奥様が搬入日に持参してくださった絵は1964年の作品で、北大に入って黒百合会で活動を始めた頃のものだった。これまでに拝見してきた会津さんの作品はどれも複雑な色合いと抽象的な形のものが多かった。この「祈る」を見て学生の頃から深層心理に根差した哲学的な内容を探っていたのかと思った。今となっては叶わないが、その中身をもう少し聞かせていただきたかった。

 新人として紹介された阿部さんはパステル画を、尾中さんは写真を出展されていた。ジャンルは他にも、様々なものが見られた。色鉛筆、水彩、サインペン、アクリル、顔彩、墨彩、ミックストメディア、デジタルアート、そして油彩と多様なジャンルに皆さんが手を拡げられていた。

今回、多くの方々が出展を決めた要因の一つに、細井さんが勧めてくださった映画「新渡戸の夢」の撮影が会場で実現したことが挙げられる。教育者・新渡戸稲造に光を当て、彼の精神を引き継ぐ人々や活動の足跡を辿り、彼の理念の結実のありようを描くドキュメンタリー映画で今年の秋に完成公開の予定だとのこと。

新渡戸の家に寄寓し遠友夜学校で貧しい子女の教育に携わった有島武郎は当然、新渡戸の薫陶を受け継いでいる。

 細井さんは、新渡戸と同期生の内村鑑三も加えかつ、当時の時計台、モデルバーン、遠友夜学校などを配した「新渡戸の夢」という作品を出品された。会場の展示の様子を撮影後、ご自身の絵の前で新渡戸への想いと黒百合会との関連などを語った。全編がどのようなものになるか完成が今から待ち望まれる。


 「新渡戸の夢」 F20 油彩 細井真澄

 撮影が終わった最終日、監督にも加わってもらい打ち上げパーティを4年ぶりに行なった。懐具合を心配していただき多くの差し入れが集まり、久しぶりに従来と変わらない賑やかな打ち上げになった。何よりも楽しかったのは、多くの会員と話をする機会が持てたことである。日常のこと、健康のこと、そして制作や取り組み方へと話は尽きなかった。これまで、いくつかのモチーフに取り組み、作品をまとめてきたが、それを出展することで欠点や新たな気付きを得ることが出来た。

しかし、それだけではなく、仲間との歓談を通してどれだけ多くの励ましや喜びを得られる場であるかを再認識させられた。そのような場であることをも知り、115年前に作られた黒百合会の存在の貴重な意味をもう一度考える機会にもなった。

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第60回 東京黒百合展 相互講評

恒例により、出品者相互の作品講評(感想)を下記に掲載します。これは出品者全員が籤引きで相手を決め、作品について率直に感想、意見を述べ合うものです。相互に作者の想いを語り、絵画の魅力、絵の楽しさを共有できれば幸いです。 ◯ アイウエオ順 左・出品者 右・←印は講評者。 ◯ 作品はHP「ギャラリーコーナー」で見ることが出来ます。 ――――――― ★ ――――――― 会津光晨  「太い樹」← 石川三千雄

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