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執筆者の写真東京黒百合会

第61回 東京黒百合展・総括


展覧会幹事 細井眞澄


 コロナもやっと沈静化し、やっと本来の展覧会を開催できました。

天候にも恵まれ、沢山の人々が会場にお見えになり、盛会の内に無事に会展を終えることができました。これもひとえに会員や多くの皆様のご協力のお陰だと心より感謝申し上げる次第です。

 コロナも落ち着いたせいか、第60回展と比較すると、出品者も30点から37点に増えました。

 そして今回から青木康明さんと采孟(うね つとむ)さんが初出品されました。

会期中はとても和やかな雰囲気の中で最終日までを迎えることができました。

また作品は各自の自由な表現による個性豊かな力作揃いの作品が集まり、見事にバランス良くまとまり、とても見やすく素晴らしい展覧会になりました。

 会期中は当会の伝統でもある、とても和やかな「お楽しみ村」の雰囲気になって居ました。そして今年も北大東京同窓会報「フロンテイア」に第61回東京黒百合展の案内を載せて頂くと共にメールニュースとして千名程の会員に配信し、さらに同窓会のスタッフの人達のご協力により、宣伝効果も上がりました。

 今回も笠原様及び会員皆様や画廊のご厚意により多くの差し入れあり、多大なご協力を頂いたお陰で、盛大にかつ和やかに“打ち上げ”ができました。会報誌面にて失礼ですが、皆様のご協力に対し心より感謝申し上げる次第です。

来期は新人が2人増えます。

コロナ禍を乗り越え、全員参加を目標に、力作が所せましと会場に並び、気楽で楽しい会展が開催できることを楽しみに致しております。

 誠に残念だったことは、本会に多大な貢献をなされた建脇さんの訃報を聞いたときです。  

最後まで筆を握って会展を楽しみにしていたそうです。

心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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第61回展:相互講評

 恒例により出品者相互の作品講評を下記します。これは出品者全員が籤引きで相手を決め、作品について率直に感想、意見を述べ合うものです。会員相互に、作品・作者の想い(コメント)を参考に鑑賞者として率直な感想・意見を述べ合い、絵画の魅力・絵を描く楽しさを共有し、明日の糧とする場となれば幸いに思います。

 〇 アイウエオ順

    作者名「表題」下の←印は講評者

 〇 作品は「HPギャラリー」で見ることができます。


   ―――― ★ ―――――

青木 康明「谷中商店街」

            ← 笠原 寛 

どの絵も心にすっと入る気持ちの良い絵です。色を塗りのこした白地の処理と「谷中商店街」の人物の入れ方に感心いたしました。絵に動きが感じられます。

楽しそうな街のざわめきが聞こえてきそうです。


石川三千雄「棚田から妙義山を見る」

            ← 大谷芳久

堂々と描いています。田植えが終わったばかりの前面の棚田から山裾、そして山に向かって鮮やかな緑色が画面を覆っています。

左下の赤い屋根の家や白い建物が山容をいよいよ大きくしています。

   それにしてもすがすがしい健康な空気が

満円した絵だと感じています。


采  孟 「旅の丘から」

            ← 笠木玉泉

SMの小さな画面に濃密な世界が広がっていて、古い尖塔の部屋から覗き窓で外を見ているような気持ちになった。

古色がついているような表現は、タイム

スリップ感をもたらしてくれて深みを感じました。


江沢 昌江「流れ」

           ← 長谷部 司

近寄っても細字で画面一面にスタンプされた詩句がよく読み取れず欲求不満になりますが、離れて見るとスタンプが掻き消えて見事な題名にふさわしい抽象画で、作者の以前の半

具象の作品より遙かに魅力的です。

 多分、スタンプの詩句は作者が新しい絵を生み出すために内面的には必要だったのでしょうが、もう内面に戻してあげたらどうでしょうか。


大谷 芳久「西伊豆黄金崎」

           ← 鏑木照美

西伊豆にはコロナ前まで毎年行っていたが、3年ぶりに行って気がついたことは何だったのでしょうか!

全体に明るく暖かい色合いで描かれ町全体に流れる雰囲気が感じられる作品だと思います。


奥野 嘉雄「襟裳から届いたオオズワイガニ」

       「賑やかな紫陽花」

                ← 清水全生

奥野さんの絵はいつも魅力的で人の心を鷲掴みにする。今回の絵2点、黄色のカニと紫色の紫陽花も、共に焦点がはっきりしていて、人を引きつけるインパクトがあった。

オオズワイガニの方は贅沢に4匹も構図に気にせず大胆に描かれ、おいしそうな絵で成功です。味はどうだったかが気になる絵でした。

紫陽花の方は大きな紫一杯の花で、奥野さん好みのゴッホやモネの描き方に似て妖艶な漂いと豊潤な女性のイメージがしました。


尾中健二郎 「都会の孤独・天空へ」

                ← 清水全生

地下の立杭、トンネルの中から明かりのある方を見たもの、またはヘッドライトの輝き等にも見えたが、いずれも異なっていた。隅田川の堤防沿いに林立する高層マンションの夜景を回転させ、抽象化した映像とお聞きした。

確かに下から上を見上げる映像と理解し大都会の中で、下方に小さく居る孤独な人が見た情景と理解できた。川の暗さとマンション群の明るさとの対比が象徴的で、思索が広がる作品と感じた。


笠木 玉泉 「桜 あなたへ」

                ← 小石浩治

病に伏せる彼が「桜を見たい」と言った。笠木さんは全身全霊をかけて青春の思い出を、あの日あの時の楽しかったことを、花びら一枚一枚に描き綴った。

“桜花 いのちいっぱいに 咲くからに命(いのち)をかけて わが眺めたり”

――岡本かの子

だが“仕上がり”を見ることなく彼は逝ってしまった。

嗚呼!どうして、神はかくも非情なことをなさるのか。

画面四分の三の「墨色」には「五彩あり」。

否、もっと多くの色彩、二人の心の内が描き込められている。


笠原  寛 「秋の日」

                  ← 西沢昭子

前景の穂・ススキから川の曲線に導かれて中景の秋色の木立に、そして煙るような

パープルグレーの低い山並みの向こうに、爽やかな青い遠景の山々が望まれ、視線は

秋の空へと解放される。

穏やかな山里の風景は笠原さんお手のもので非の打ち所のない好作品となっている。

中景の木立の朱色の花か木か、アクセントが心憎い。

作者言に年間9回の出品作とのことでびっくり。それは本当に大変なことでしょう。

偉いなあと関心です。



  鏑木 照美 「畦桜」

                  ← 采 孟

周囲の鮮やかな樹々と調和しながらもオーラを発する桜が描かれています。

樹齢200年という時を超えて今なお秘めやかな気品が漂っています。


  木綿 弘子 「柘榴」

                ← 西村幸二

木綿さんの色彩ハーモニーはすでに定評の域に入っているが、今回は構図、特に

窓を巡っては議論を呼び起こした。

「窓なし派」として、後藤さんのギャラリー写真を横長に窓増しとして、ランプを右端近くになるようトリミングする(右下の柘榴も消える)・・・と、記した翌日には、縦長のまま窓の下部を残してランプの右端が切れるほどにトリミングする・・・等と、またまた新たな脳内試行が続く。


桑山 雅子 「野菜たち」

       ← 江沢昌江

桑山さんと言うと線と色彩で音楽みたいな作品イメージでしたが、今回の暖かいカラフルな絵も画面全体の野菜等のバランスや背景に桑山さんらしい音楽的なところが感じられます。さらに油絵の具の質感が野菜の自由な楽しげな形と調和して、確かに収穫祭、祭りな感じです。


小石 浩治 「天よ 邪気を祓い給え」

             ← 長谷川 脩

絵の前に立って目に飛び込んできたのは人物の顔が先で、題名とどう結びつくのか

すぐに分からなかった。

刷り上げた紙の中の像が「毘沙門天」の模様。

今回、「天地創造」や「聖獣麒麟」等、天変地異から普通の生活を望む祈りの

対象が登場した作品が続いた。

コロナ禍、異常気象と続く現在を反映する所以なのかと思って眺めた。


後藤 一雄 「人物」

         ← 森 典生

後藤さんのCDはこれまで色々の種類と表現方法で表わされ、楽しませていただきましたが、今回は制作所感にある世の中の変異、人類の未来を想像した思い・を具象化され立体的な投影技術での映像は素晴らしいと感じました。

次にはデジタル絵画のリアルで美しい映像を期待しています。


清水 全生 「千曲川旅情・小諸」

             ← 奥野嘉雄

流れる雲と赤い柿の木々を取り込んで詩情豊かな千曲川の秋が見事に表現されている。遠近をあまり意識せず風景を単純化して描かれた本画は、長野の里を描くことで有名な原田泰治と絵と同様にメルヘンの世界を感じる。なお、手前の山野を明るくする絵も見てみたい。


染川 利吉 「由利ヶ岬の赤灯台」

             ← 福林紀之

技術屋は小難しいことを言いがちである。

”赤い灯台は、防波堤の先端だ。“とか、”岬の灯台の背後には、建物はないはず”とか。しかし、この絵の風景はこれで良いのです。メルヘンですから。沖行く船、雲間から漏れる陽光、どれもが優しく、穏やかです。夢のある平和な光景です。作者のお人柄が偲ばれる、心静かで温もりのある作品です。


建脇  勉 「早朝冬至景 Ⅱ」 

              ← 細井真澄

とても幻想的な絵です。音も聞こえない深い静寂が幽玄の世界へと誘ってくれます。

かすかに灯る明かりが印象的で、心の奥底に深く浸みこんでしみこんできます。

今までの建脇さんの力強い絵とは違い、悟りを切り開いた様な境地の絵です。

まさか、この絵が絶筆になろうとは!

会展の最後に訃報を聞き驚愕しております。

我が会をこよなく愛し支えてきて下さった大先輩であり、とても優しく対応して頂きましたことを心より感謝申し上げると共に、心よりご冥福をお祈りいたします。


西沢 昭子 「室内」

             ← 長谷部 司

今は少なくなったよき時代を偲ばせる懐かしい典雅な油絵の一枚だと思いました。

作者にとって居心地のよい大事な室内を絵にして残して置きたかったのでしょうか。

それで十分だと思います。

第三者の眼に構図的に無理があるかあるとか、家具が多すぎるとか、絵の左下隅の処理があいまいだといっても始まらないと思いました。


西村 幸二 「2023・8/13 ハクモクレン一輪」

               ← 木綿弘子

早春に咲くハクモクレン、西村さんの絵はいつも淡い色彩の中に心揺さぶられる感情がこもっています。

下地に含まれているグリーンが美しく、輪の花を横にそっとおいてある鮮やかなグリーンがこの絵を引き締めています。

抽象画のような魅力的な絵です。


長谷川 脩 「岩子屋沢岳」

             ← 牧野尊敏

題名は山の名称になっていますが、この絵のメインになっている樹は、ダケカンバとのこと。よくダケカンバの美しさを表現されてよい絵と感じました。私も以前に日光や長野へスケッチに行った頃の感動を思い出しました。黄色は目立つので秋に樹を描く時はいつも主役の色でした。

絵の構成は各人それぞれのパターンがあり、その描き方で相違があり個性を生みます。

長谷川さんの絵は明るいのが良いです。

勝手なことで恐縮ですが、強いて言えば、樹間の表現を少し変えると、ダケカンバに奥行きが出てその存在を強く表現できたのではと感じました。

このような同一の樹が並んだ風景の絵は、単純になり勝ちで、その表現に苦労されているかと存じます。長谷川さんの絵はどの絵も明るく癒しのある絵です。次回の絵を楽しみにしています。


長谷部 司 「大和三山」

              ← 牧野尊敏

大和三山の絵について、このような歴史的背を含む風景を絵にするのは、この地に強い想いを持って居られるからだと存じます。絵は中間色でまとめられ三山もきちんと表現されており、落ち着いた良い絵ですると感じました。ただ、山と称してもこの三つの山はアルプスの山と比べ低く、どれも200Mにも満たない丘の様な山で、一般に見過ごしてしまう風景です。この絵は一般的な風景画としてまとめられていますが、私の勝手ですが、この風景や歴史に疎い第三者にこの絵を引きつけさせるために、何か歴史的なものを追加したら違った構成の絵になり、より関心のある絵になったのではと感じました。実際の現場は、この絵の背後方向は飛鳥時代の明日香地域です。例えば前景に和歌を載せるとか、その時代を想起させるものを追加するとか。この絵の他に野島崎灯台のスケッチ画が 2点展示されましたが、講評は省略します。


初谷 長治 「ブルージュの運河と橋」

              ← 後藤一雄

歴史ある欧州特有の街並みが美しい。

運河に反射する石造りの橋もよく描かれている。平和であることの大切さ実感させる

作品である。


樋口 正毅 「夜の函館」

             ← 渡辺理枝

二年あまりかけてお描きになったこの絵に樋口さんは、万感の思いを込められたのではないかと想像しました。

煌めく星空のもと函館の夜景はさらに輝いて見えます。私も星空の函館を一度は訪れたいのですが“夜の函館”が人々を楽しませるこの絵のような美しさを保ち続けることを願うばかりです。

   

福林 紀之 「野島崎灯台」

              ← 染川利吉

中央の大きな灯台に対して、岩がバランス良く配置され、心地よい構図となっています。

単純な風景となるのを避けようとしている作者の意図が感じられ、空の状況など成功しています。一方、岩にぶつかる白波の様子に一工夫が欲しいところです。

実景は波静かな日だったかもしれませんが

空の雲行きとの関係で、白波の立つ形態としても良いかと思いました。


細井 真澄 「麒麟よ 早く来い」

             ← 尾中健二郎

展覧会会場を巡り、インパクトのある作品の一つが細井氏の「麒麟よ、早く来い」であった。今の世界情勢に敏感に反応した作品で、ウクライナ民族衣装の少女の憂いを含んだ表情、日本の将来への不安、世界の異常気象による異変、不条理な戦争状態の地球に、一日も早く平和が訪れるよう願う切なる思いを麒麟に託した気持ちが伝わってくる印象深い作品である。


牧野 尊敏 「河畔風景」

              ← 小石浩治

作品はとても綺麗で、まるで写真を見るようである。綺麗で破綻がなく、静かな画面を構成している。欲を言えば、“自然の動き”が欲しかった。というのも、時が止まったように、棒杭の立つ河面は直線的で揺らぎもなく、岸辺に寄せる河波も光が薄く、近景の小舟の存在も寂しい。中景の船泊りに見える人物をもう少し大きくし、はっきりと“動き”を持たせてはどうだろうか。


森  典生 「バイオリニスト」

              ← 青木康明

モデルの女性が奏でているのは、チゴイネルワイゼンかパガニーニの奇想曲でしょうか。

暗めの色を複雑に重ねた背景に白く浮かぶ顔と手、画面全体から激しいメロデイーが聞こえてくるような印象は、作者の思惑が成功している感じがします。

個人的には左手にもう少し躍動感があったらと思いました。


山川 直美 「一話一分でわかる日本の神話イラスト 天孫降臨」

               ← 石川三千雄

大昔の神話がA5版の紙に鉛筆で描かれている絵にはビックリでした。会場内で最小の絵を楽しみました。また傍に置かれた神話の世界の物語、「おおてらすみこと」など、

幼少の頃、習った気がした。


   渡辺 理枝 「モレイン湖・カナダ」

               ← 石川三千雄

カナダの山岳地帯と湖をそのままに絵にしたような清楚な感じがした。

湖面に山頂の雪が映っている姿は素晴らしいものがある。


   ―――― ★  ―――――


 第61回展は盛会裡に終えることができました。

 皆様のご協力に感謝いたします。

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