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執筆者の写真東京黒百合会

風景との対話

フロンティア「風景との対話」より(2020.12)

―― 絵を描いて思うこと ――              牧野尊敏


 何のために絵を描くのかと時々思うことがある。今更深く考えることもないが、私は人生に一つの潤いをもたらすものととらえている。一言でいうと人生を楽しむためということになる。しかし、プロの目には絵に対する追及が甘いと咎められるかもしれない。それは承知の上で、残り少ない時間を趣味として描くことに費やしている。コロナ禍の昨今であり、最近は自粛生活を余儀なくされている。

 描く時間はたっぷりあると思われるかもしれないが、どういうわけか楽しむ気持ちになれない。

 描いても自己満足に終わり、それは人様に見てもらう機会が無くなっているからと思う。

それでも意を決し比較的感染者の少ない房総へ行ってみた。久しぶりに海の潮の香りに接する機会を得た。幸い天気に恵まれ、コロナ禍を忘れ広い海原を眺めて久しぶりに感動の気持ちに浸った。

 今回はその時に取材し水彩でまとめた絵を紹介する。

 作品Aは、宿を朝6時に起床してみた鴨川太海海岸の日の出である。海面上の太陽の光が神秘的であった。時間の経過とともにあたりの様子は生き物のように変化していく。自然の不思議さを感じるひと時であった。写真であると逆光になるので岩場は暗い単色で単調になってしまうが、絵なので目にしたとおりに岩肌を強調し変化をつけた。空は雲があった方が絵に変化を与え面白い。

 作品Bは、鵜原理想郷の入り江海岸である。岩肌の地層に特徴があり、その面白さに引き付けられ描いてみた。ここはリアス式海岸で、岩肌が太平洋の荒波に浸食され独特の自然形態をなしている。折り重なった硬軟の地層の浸食された岩肌であるが、何故この形になるのかと見とれてしまう。この日は静かな日で入り江でもあることから荒波はなかったが、絵には岩場の遠方に荒波が打ち寄せている光景を追加してみた。取材した場所は異なるものの、一人房総の海を見ていると現場にいることでの幸せを感じる。傘寿を迎える年齢になっているが、絵を描く気持ちが健康の元になっているものとしみじみ思う。自分の行動が絵に残るので、一つの生きがいになっているのかもしれない。

機会があれば元気なうちにまたどこかへスケッチに出かけたいと思う。


作品A:「房総海岸の日の出」水彩


作品B:「鵜原理想郷の海岸」水彩


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