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風景との対話

  • 執筆者の写真: 東京黒百合会
    東京黒百合会
  • 4月2日
  • 読了時間: 2分

北大同窓誌 Frontier 66号‘25/2/20

「お供はスケッチブックと缶ビール」

福林紀之(理学部地質、S39年卒)


学科は理学部地質鉱物卒。部活はヨット部。小樽でヨットにうつつを抜かし、地質調査と称して山野を歩き回ったのが札幌時代の生活。

 4年の卒論のころ、実験試料の岩石採取に、教室の八木健三教授と深川あたりの低山に出かけた。弁当箱くらいの大きさに割り採った安山岩をいくつか集め、その晩は鄙びた山の湯に入る1泊2日の旅。


 昼飯時、重い石を担いでよれよれになって山頂にたどり着くと、先生はすでに缶ビールを片手に、小さな画帳に周辺の山をすらすらとスケッチしているではないか。なんとも爽やかで抒情的な光景であった。大人になったら、こういう風に生きたいものだなあ。教授から教えられた地質学の学問は何一つ覚えていないが、この刺激的な光景だけを覚えている。


 旅に出て、その場の印象を小さなスケッチブックに残すのは、なんとも楽しいものである。最近は山登りがだんだんきつくなったので、専ら川の土手を歩くことが多い。多摩川や相模川などてくてく下り、やっとこさ海に出たときの達成感がなんとも楽しい。

 富士山を右に見ながら酒匂川を下ると、目の前に小田原の海が広がる。ザックからビールと画帳を取り出し、河口の砂浜に咲くハマヒルガオを前景にして海を大きく描き乱雑に色を付ける。街まで歩けば、またビールと天ぷらにありつける。


『大雪旭岳にて』 水彩 G4
『大雪旭岳にて』 水彩 G4

 大雪山のてっぺんは夏でも雪渓が描けるので好きな山である。残雪の白とはい松の緑が見事なコントラストを演じている。


『教養本部・古河講堂』 水彩 F6
『教養本部・古河講堂』 水彩 F6

 北大の構内には絵心を誘う農場や古い学舎が沢山ある。形や色合いが個性的で、ここは日曜画家のメッカである。ある冬の朝、ひと気のない構内で絵筆を走らせたこともある。


ヨットで尋ねる島々でのスケッチも楽しい。最北の名山・利尻富士や、伊豆諸島・神津島の天上山などは、海からは迫力満点の眺めだ。


 スケッチはササっと描いて、ちょこちょこっと色を付ける。絵と言う程のもではない。黒百合会の画伯たちに言わせれば、絵画でも何でもない。でもそれが楽しいのだから、仕方がない。


 あっちをうろうろ、こっちをうろうろしながら、小さなザックの中にF3のスケッチブック、保冷材にくるまったビール缶一本と握り飯をいつもお供に持ってゆく。


 『昼飯は何がうまい』と聞かれたら、旨い空気を吸いながらの、握り飯とプッシュと開けたビールと答える。

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